Walkure


Look at me!!!/呪術/西宮桃





Look at me!!!




 耳元に光るピアスを可愛いと思ったのと、彼女と目が合ったのはほぼ同時だった。小首を傾げた彼女の名前を思い出す。西宮桃と名乗った彼女は小柄で、飴玉が転がるような声が印象的な女の子。金色に揺れる髪と黒のワンピースのコントラストがどこか異国を思わせた。唯一の同性の同期だから、名前はすぐに覚えられた。
「西宮さん」
「桃でいいわよ、堅苦しいじゃない」
 華やかな様相とは裏腹のあどけない笑み。左耳に着いた数々のピアスが彼女の幼い顔立ちを余計に無防備にさせているようにも見えた。
「そうだね、女の子は私達二人しかいないものね」
 男子二人と女子二人の計四人にはあまりにも広すぎる教室。ここを学び舎に私達の生活が始まる。どんな事情であれ、高専に集まったからには似たような背景を持つ者同士が集まる。呪いを扱う以上、きっと普通の高校生とは程遠い生活を送ることになる。突然の別れだって想定の範囲内だ。だからあまり互いに深く介入しないのがベターだろう、と思っていたのだけれど。
「名前、ちょっと立って」
突然何を言うのだろうとおろおろしていると、「加茂くんと東堂が来る前に早く!」と急き立てるので、言われるがままにその場に立った。桃は私の足元をまじまじと見つめ、次第に顔を曇らせた。
「スカートの丈長くない? これじゃあ地元の中学生か何かよ」
 突然何を言い出すのかと思ったら、高専の、しかも私の制服への文句だった。
 高専の制服はオーダーメイド。一年だし地味な方が悪目立ちしないだろうという理由で丈を指定したのだ。それに着る服にもそこまでこだわりはない。なんとなく、風景の中に取り込まれたかった。
 昔から悪目立ちしないように取り繕っていた。幼い頃からこの世のものではあらざるものが見えた私は、同じく「見える」母に散々目立たないようにしなさいと言われ続けた。体育の授業は平均を保ち、勉強は多少できても点数は自慢しない。ここまでは普通の家庭の子も言われていることだろう。しかし服装となると特段厳しくなった。派手にしちゃいけません、大人しくしていなさい。あなたは特別な子。だからあんな格好をしなくったって価値はあるの。母はこれらの言葉を呪文のように唱え続けた。七五三で着物を着れば馬子にも衣裳と笑われ、反抗心でお小遣いで買ったミニスカートを履いた日には、似合わないと散々馬鹿にされた。男性ばかりが優遇される世界を必死に耐えた母は、私にも同じ呪いをかけた。私はそれを、気付かない間に内面化していたのだと、今になって思う。
「だってこの長さが一番落ち着くんだもん」
「そんなこと言ってたらナメられるわよ。なまえは黒髪でただでさえナメられやすいんだから」
はいバンザイ!と言うので、そのまま両手を上げると、桃はスカートに手を回しウエストを盛大に折り曲げた。一回、二回、三回。膝の上で揺れる裾が眩しく映る。テレビや雑誌で見かける、あの長さ。
「こっちの方が断然いい! 後で歌姫先生に連絡ね。脚も長くて本当に羨ましいわ」
 桃は得意気に笑った。足元は少し寒いけれど、この方が脚が長く見える。
 私は桃を羨ましく思う。ピアスもチョーカーも、彼女の意志で身に付けたものだろうか。自由に着飾る楽しさを知る彼女のことを、もっと知りたいと思う。
「そっちの方がかわいいよ」
「え?」
「なまえ、今初めて笑った」
 ぶわりと、耳元が熱くなる。かわいい、と言われたのはいつぶりのことだろう。もしかしたら、初めて?私にも、その言葉を言われる権利はあるのだろうか。
「本当に?」
「この私が言ってるんだから信頼しなさい! 女の子の呪術師は見た目も完璧じゃないと務まらないのよ。ほら、背筋伸ばして」
 背中にほんの少し力を入れる。私と桃以外、誰もいない教室。だけどそれがほんの少しだけドラマチックに見えたのは気のせいだろうか。ううん、違う。目の前にいる小柄な少女が、私の見える世界を変えたのだ。小さな背中にどれだけの覚悟が詰まっているのだろう。どんなものを見て育った?何が好き? 恋人はいるの? 桃に対する興味は止まることを知らない。だから。
「今日の放課後街に出るのとか、どう?」
「もちろん。まずはなまえの分の買い物でもしましょうか」
「うん。桃、私には何が似合うのか教えて」
「もちろんよ」
 変化には必ず恐怖が付き物だ。けれど桃と一緒なら、どんなものだって乗り越えられる、そんな気がしている。だってスカートが短くなった今も心が軽いから。こうして人は大人になっていくのだろうか。私は解放と呪縛を、この人生の中で何度繰り返すのだろう。まだ分からないけれど、その第一目撃者は桃がいい。
「メイクもおしゃれも頑張るから私のこと、ちゃんと見てて」
「大丈夫。私がついてるから、なまえも無敵になれるわ」
 晒された両膝はまだくすぐったくて、すぐ猫背になってしまう。けれど嬉しくて笑みが零れてしまう。桃はそんな私を見て、安心したように微笑んだ。



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