Walkure


癖っ毛とスカート/女の園の星/古森さん





癖っ毛とスカート



夢主がなんとなく小林先生のことが気になっている描写あり。
JKのゆるい日常の描写がメインです。







 女子校、と聞いて世間は何をイメージするだろうか。
「ごきげんよう」の挨拶? 互いにタイを結んだり? 先輩のことを「お姉さま」と呼んだり?
 残念。ここ成森女子高等学校はそんな秘密の花園のような現象とはほぼ無縁。早弁は当たり前。生理の子がいればナプキンを素で手渡し、夏の暑い日はスカートの中で下敷きをうちわ代わりにして煽ぐ。写真を撮る時は全力の変顔――おっと、これ以上話すと世間から冷ややかな目で見られそうなのでここまで。
 そんな女の園の、くだらない日常。


「え」
「まじで言ってんの」
「冗談はやめとけ」
 とある日の五限。この日は自習だけれど、きちんと机に向かっている者はほとんどいない。代わりに皆、好きなお菓子を持ち寄って思い思いに過ごしている。
「で、名前は小林先生のどこが好きなわけ?」
 教室の中央で皆が注目するのは苗字名前。成り行きで恋バナをしていたら名前に話が振られて――というのは建前で、名前の本当の目的は古森さん。さらさらの少しウェーブのかかった黒髪のロングヘアにシースルーの前髪。ハンディファン片手に脚を組んで座る姿は、クラスの頂点そのものだ。
 古森さんと少しでもいいから近付きたい、名前はそう考えていた。可愛くって、色んな子と仲が良くて、先生をいじり倒せる。そんな古森さんが羨ましくて、どうにかして接点を持てないか思案していた。
名前は自分の存在をコンプレックスに感じていた。勉強も運動も人並で、特技がある訳でもない。容姿も普通。特別に運動や勉強ができる子、アイドルの追っかけに忙しい子、部活に精を出す子。女子校というのは個性の塊の集まりで、そんな中で埋もれているような気さえした。
「なんだろう、顔?」
 だから名前は小林先生の名前を挙げた。これは女子校独特の文化なのだろうけれど、やたらと先輩のことが大好きになったり、先生の熱烈なファンになる生徒が多数見受けられる。名前もそのうちの一人ということにして、数学科の小林先生に犠牲になってもらった。ただしこれは恋愛感情のそれではなく、あくまでもリスペクトの好きで、ということなのだけれど。
「安直ー!」
「素直でよろしい」
「待って、もう一度聞くけどそれはガチの好きなの?」
「ううん、ラブというよりはリスペクトだと思う。古森さんが星先生のステッカーを作ったのと近いかも?」
 ちらりと古森さんの方を見ると、両手を叩きながら爆笑している。
「何それウケる、苗字ちゃんも小林先生のステッカー作る?アプリ教えたげる」
 古森さんは名前の隣の席に移動した。シーブリーズの匂いがほんのりと香って、四限の体育の授業の暑さを思い出す。
「いやでもラブじゃなくて安心した、小林先生結婚願望ないしね〜」
 けらけらと笑いながらスマートフォンを開くと、古森さんはステッカー用のアプリをインストールした。そういえば星先生のステッカーは小学生に全部あげたとか、作るのに飽きたとか言ってなかったけ。というかそもそも私もステッカーを作る気などさらさらないのだけど。名前はそんなことを思いながらも黙って古森さんのことを見つめた。
 名前が古森さんに取られると、皆が口々に、思い思いに小林先生について話しだす。それにしても小林先生に結婚願望がないとかどこで聞いたのだろう。名前はクラスメイト達のコミュニケーション能力の高さを羨ましく思った。
「古森さんてさ」
「ん?どうしたの」
「もし、私が小林先生のことを本気で好きって言ったらどう思う?」
 名前が教室中の騒音に紛れて打ち明けると、古森さんははっとした。
「待って、やっぱ本気?」
「本気になったら、の話」
「おすすめはしないけど応援はする。だってあたしの人生とは直接関係ないし。あ、放課後今度の席替えで真ん中の真ん前にしてもらえるように星先生に打診しに行かん? 小林先生にも会えるかもだし」
 古森さんはにこりと笑いながら囁いた。
 その時名前は、なんとも言えない優越感を感じた。古森さんと恋バナっぽいことをしている、秘密を共有している、と。自分の人生と直接関係ないといいつつも名前の恋愛事情に首を突っ込んでくるところに、妙なくすぐったさを感じた。
「今日五限で終わりだよね? 一緒に職員室行ってくれる?」
「もちろん。あ、じゃあ苗字ちゃんお礼にスタバ奢って〜」


 この後名前が小林先生にガチ恋して数学の成績が爆上がりし、理系大学に進学して周囲を驚かせたのはまた別のお話。