Walkure


おそろいの寝癖隠してふたり





おそろいの寝癖隠してふたり





 景色が変わる瞬間があると信じている。季節の変わり目。前髪を切った時。それから、誕生日を迎えた朝。

 はらはらと、オレンジ色の髪が落ちていく。彼女を形成する一部は音もなく舞い、やがて静かに重なり合う。
「目を開けて」
「わあ、ばっちり」
 ナミは手鏡に映る姿を見るなりぱっと華やいだ。目を閉じている間、そのまま寝てしまうのではないか心配になるくらい静かだったのが嘘みたいだ。
 前髪を切っていた。朝起きるなり「切って!」と言われてから今に至る。
「それにしても急にどうしたの?」
「うーーーん、イメチェン? してみたくて」
 そう言って、今日のバースデーガールはこちらを見つめた。ほんの数ミリ出来た余白のせいか、目がいつもより大きく見える。コームで前髪を梳くとくすぐったそうに目を閉じた。
「イメチェンねえ。でもどうして私に頼んだの?」
「自分でもできるけど、そうだと面白みがないじゃない? こう……目を開けた時に初めていつもと違う自分を見てみたかったの! だからお願いしちゃった」
「誰かにお化粧してもらう時の感覚と似ているのかしら」
「そういうこと!」
 大きく頷くとそのまま伸びをした。夏の太陽の光にも負けない明るい髪が揺れる。毛先のうねりは昨日の夜にできたものだろう。私にもきっと、同じくらいの寝癖がついている。
「背中向けて。ブラシを当てるわ」
「ちょっと待って! この話には続きがあって」
 手を取られ、顔が近付く。ポップコーンが跳ねる勢いと良い勝負ができそうだ。ナミはいつだって動きが速くて、夏生まれは皆そうなのではないかと思ってしまう。
「そんなに急がなくても逃げないわよ」
 ナミがまた前髪を整えて真正面に座った。それに合わせて私も膝を向ける。
「新しいあたしを、ロビンに一番先に見せたかったの」
 ウインクをして言う姿は、今日の主役そのものだ。今日という日だけではない。自分の人生の主役は自分であることを知っている者の表情だ。その先に私がいる事実に、背筋が伸びる。
「ありがとう。とても嬉しいわ」
「どう? 似合ってる?」
「ええ」
「じゃあ可愛いって言って!」
「分かった。でもその前に目を閉じて」
 目を閉じてからキスをひとつ。スローモーションのように長い一瞬を、きっと忘れない。
 素直なナミはすぐに目を開け、顔を真っ赤にしている。
「真っ赤なナミも可愛いわ」
「ちょっと! 不意打ち!」
 朝から元気に飛び跳ねる恋人を、後ろから抱きしめる。夏の始まりはやり過ぎなくらいが丁度いい。
「ハッピーバースデー、私の可愛いナミ」
 この後お揃いの寝癖を作ったのは、また別の話。