「名前ちゃん?何してるの」
「……なんでもないよ、友達からトーク来てたから返信してたの」
「そっか。……おいで」
「……うん」
愛しい人とのトーク画面を閉じて、恋人の腕に抱かれる。
私は、今日も嘘つきだ。
薫くんと出会ったのは偶然で、海でサーフィンしている彼を見かけたのが最初だった。
彼は女の子が大好きらしく、私にも気軽に声をかけてきて。それから数回デートを重ねて、告白してきたのは彼の方からだった。
「名前ちゃん、好きだよ」
「俺の彼女になってくれない?」
まさか彼に告白されるなんて思わなくて、二つ返事で頷いた。
このときのことを、私は今も後悔している。
「名前ちゃん?いまどこにいるの」
「さっき、男の人と歩いてたよね」
「俺のこと嫌いになった?」
薫くんとつきあい始めてから、薫くんはやけに私の居場所や行動を把握したがった。彼に会わない休日はほとんどずっとトーク通知が鳴り止まなくて、まるで見張られているみたいだと思った。
いちどだけ、彼にそれを告げたことがある。
「ねぇ、薫くん……何でそんなに私の動向を気にするの?」
「好きな子のことは何でも知ってたいでしょ?それだけだよ。」
「でも、流石に休日くらい好きに遊びたいよ……」
「……名前ちゃん、俺のこと嫌いになった?」
「え?なんで、」
「俺は名前ちゃんのことを全部知りたい。名前ちゃんに優しくしたいし、ずっと一緒にいたい。……でも、名前ちゃんは違うの?名前ちゃんも、俺を捨てるの……?」
縋るような、普段は見せない弱い声に、私はがつんと衝撃を受けた。
捨てないよ、ずっと一緒にいる。薫くんが好きだよ。気がつけばそんな言葉を告げていて、その日、私は初めて薫くんに抱かれた。
薫くんは優しかった。私がちゃんと連絡さえしていれば、他の男と二人きりになるようなミスを犯さなければ、薫くんは最高の彼氏だった。彼が他の女の子に甘いのも、私に余分な火の粉が飛ばないようにしていると言われたら納得してしまっていた。
「……薫くん、」
「ん?どうかしたの、名前ちゃん」
「これ……、キスマーク、だよね?」
ベッドの中で、彼の体に残るキスマークについて言及したことがある。
私は彼にキスマークを残したことはない。
だから彼の体に残るそれは、明らかな浮気の証拠でしかなかった。
「……ごめん」
「かおる、くん?」
「でも、許して。名前ちゃんに危害を加えないためには抱くしかなかったんだ。あの女、俺が名前ちゃんしか愛してないのを知っててそれでもいいから抱かないと名前ちゃんを傷つけるって」
「っ……薫くん、」
強い力で両腕を掴まれて、私に嫌われまいと必死に懇願する彼を、どうして拒絶することができるだろう。
大丈夫だよ、私のために辛い思いさせてごめんね。私の言葉で、薫くんは安堵の表情を浮かべる。
俺が愛してるのは名前ちゃんだけだよ。
そんな言葉を、私はまた鵜呑みにしてしまうのだ。