終焉 (2/3)










:終焉:
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「……おい、早くしろよ。モタモタすんな」

「そんなこと言ったってよ、兄貴〜。さっきからゴミが邪魔なんだ、運びづれェよ」

「そんなの気合いでどうにかしやがれ!こんな場所でチンタラしてる訳にはいかねェんだ、早くしねェとここの奴らに盗られちまう」

「ああ、そうだな……先を急ごう」



時同じくしてここは"東の海"-イーストブルー-。

どこか緊迫している重々しいこの場の空気。

小さな荷物車を取り囲むようにして集団で歩いている五人の男が、あからさまに周囲を警戒して視線を泳がせているのが目に映る。

出来ることならこの場を急ぎたいのだろうに、足元に転がっているそれらが邪魔で上手く先に進むことが出来ないらしい。

それが彼らの焦燥感を煽り立てていた。

見上げた先には、この"東の海"で一番美しいと称される王国の王宮が、辺りから立ち込める煙の向こう側に微かに見えている。

────────あと、少し……。

あの王宮が見える中心街で早急に用を済ませたらあとは船に戻るだけ、そうしたらこの居心地の悪さから晴れて解放されるだろう。

長い航海の末、久しぶりに降り立ったこの地は─────……いや、正確には今大地の上ではなくガラクタの上を歩いているのだが。

相変わらずここは空気が悪く、それに荷台を引いているからだろうか……何やら人々の視線があちらこちらから舐め回すように突き刺さってくるのも妙に小気味が悪い。

それもそうだろう、この者たちは宝の換金目当てでわざわざこの地に着船したのだから。

しかもそのお宝の中にはなかなか入手することが出来ない貴重な逸品も含まれているので、どんなに彼らが必死に平静を装うとしてもこれから貰う金額を想像してしまえば、これ程までに周囲を警戒しすぎて挙動不審になってしまうのも無理はなかった。

本来ならばこの地に近寄りたくはなかったのだが、治安の良いあの街にさえ行けばそこには金持ちの貴族たちがいる。

稀少な逸品に目がない奴らはごまんといるのだ、それを考えればそこいらの小さな島で売るよりは高く売れる可能性に賭けたかった。


悪臭が漂うこの"不確かな物の終着駅"。


通称"ゴミ山"と呼ばれているこのグレイ・ターミナルは、隣接しているあの街や王宮から不要になった物が捨てられる場所である。

それは物だけに留まらず、悪事を犯す人間もまたそこいらに大勢転がっているのも、ここが無法地帯ならではのこと。

窃盗、詐欺、人殺し……ここでは日常茶飯事起こりうることで、それに嫌な噂を耳にする海賊団がこの地を隠れ家にしていると聞く。

だからこそこの地に降り立った瞬間から一切気を抜けない今の状況に、彼らの身体からは冷や汗がダラダラと溢れて止まらないのだ。

せっかく見つけた伝説の秘宝を誰かに盗られてしまわぬよう、なるべく動揺を隠しながら彼らは大門を目指して少しずつ歩んでいく。

そんな彼らの後をこそこそと。

背後から徐々に迫り来ている三つの小さな気配には、誰一人と気が付かないままに……。



「怖ェ〜……早く帰りてェ〜〜〜ッ」

「けどコレ……本当に"悪魔の実"なのか?変な形してるし、真っ黒で気味が悪いぜ」

「ああ……恐らくな。能力についてはうろ覚えだが、こいつが図鑑に載ってたのを見掛けたことがあんだ、間違いねェ」

「能力によっては価値が違うらしいんだが、"悪魔の実"っつったら売れば最低でも1億の値がつくんだってよ。だから換金するまで大事に扱えよ、それ。盗られたら終いだ」

「お、おうっ。判ってるって……。つうか今ここで言うなよ、そんな事!誰かに聞かれちまったらどうすんだ……!」



荷台には積まず、一人の男が大事に抱えている箱を指差しながら別の男がそれを語る。

語られた瞬間には改めてその金額の凄さに恐れすら抱いているようで、その実が入っているという箱を持つ小柄な男の手は可哀想なくらい頼り無さげに震えてしまっていた。

顔色は青白く、表情も余計に強張っていく。



「しかしすげェ……これが1億か……ッ」

「にしても、ついでにこんな物も持って来ちまったけど本当に売れるんですかねェ?見たところただの水晶で、そんな価値のある宝石には見えねェっスけど……」



そう言ってこの集団の中でも一番下っ端らしい男が見やるのは、荷台から惜し気もなく存在感を覗かせている小さな箱である。

その雑な扱いようから見てみる限り、それほど重要性があるようには見えないのだが。

パカリと蓋を開けてみれば、光の当たり具合によっては白にも虹色にもキラキラ輝く掌サイズの花型の水晶がそこには在った。

まあ年期の入った小汚ない箱に積めているには勿体ないと感じるくらいには、状態の良い女性ものの花飾りであることは見て判る。

女が好みそうなアクセサリーのことなんて正直よく判らないけれど、それを繁々と見つめていたら何故かポカリッと頭を叩かれて。



「バッカ、お前!丁寧に扱いやがれ!」

「いてっ!痛いっスよ兄貴〜〜〜っ!」

「そいつも今回の目玉の一つなんだよ!売れば億越えは確実だぞ!?お前、壊したり無くしやがったらぶっ飛ばすからな!?」

「少し落ち着いて下さいよ頭……声が大きいって。それからお前も早くそれを荷台に戻した方がいい。またとない貴重な品だからな」

「す、すいやせんっ」



日頃から短気な人ではあるが、この島に着いてから妙にピリピリしている頭はともかく。

そんな彼とは対照的に幾らか冷静な幹部から話を聞くところによると、敢えて小汚ない箱に入れているのは周囲の目を欺くためのカモフラージュなのだという。

先日立ち寄った島の闇市で偶然手に入れたこの品は元々ある国に納められていたとかで、つまりは国宝級に値する一級品らしい。

おかげで船に積んでいた財宝をほぼ全て手離してしまう形になってしまったが、その話が真ならこの程度のリスクなんて安いものだ。

何なら貴族たちは"悪魔の実"よりも真っ先にこちらの方へ喰い付くと彼らは睨んでいる。

買い取った金額よりも多くの金が懐に舞い込んでくるのだと思うと、だからこそほんの少しの傷が付くことさえ惜しいのである。



「そいつは"偉大なる航路"-グランドライン-のドレスローザって国から流れ込んできた代物らしい。信じ難い話しだが、かつてその国の小人族へ友好の証としてその髪飾りを女神が渡したって話だ。何故そんなものがこの"東の海"に流れ着いたのかは判らないが……」

「あくまで店主が言ってたことだけどな。女神どころか小人族がいるってのもそもそも胡散臭ェけど、何にせよ小人族の王が持ってたってんだ。それなりに値が張ると思うぜ」



なるほど、それが理由で頭が気を張っているのならこれは丁重に荷台へ戻すべきだろう。

話を聞く前と聞いた後とでは随分とこの小さな箱の重みが変わったような気がして、今になって尻込みする下っ端の手が震えだす。

些細な不注意で落としてしまわないよう、小箱を丁寧な扱いでそっと荷台へと戻した。





────────その時だった。

背後から突然声を掛けられたのは。





「おい」



あどけなさが残る成人にも満たない幼い声。

警戒している男たちが一斉に振り向くと、そこには物騒ななりをしている彼らを見ても怯えることなくこちらへ近付く子どもが三人、笑顔で彼らを見上げているではないか。

……そんなに余所者が珍しいのだろうか?

身なりはあまり綺麗とは言い難く、恐らくこのゴミ山に住んでいる子たちなのだろう。

だとしても警戒心の無さには呆れてしまうもので、声を掛けてきた相手が子どもだと判ると幾分張り詰めた緊張を解いた男たちは一先ず肩の力を抜いていく。



「な、何だ……このガキたち」

「おうおう、ガキ共。こっちは今忙しいんだ、さっさと親のとこに帰んな」

「おれたちに関わると痛い目みるぜ〜?」



やがてケラケラ笑いながらあしらう男たち。

ガキ共に付き合ってる暇はねェんだよと、わざとナイフをちらつかせて見せる男たちはすっかり油断しきっているようである。

そう……彼らもまた何も知らない。

この三人組がどれ程の悪童であるのかを。

無知こそ怖いものはないだろう。

周囲を警戒するならまずは"一番に危険視"しなければいけない情報を手に入れるべきだったのに、それを怠ったのが運の尽きだ。

ゆらりと、少年の瞳が鋭く彼らを捉える。



「良いモン持ってんな、お前ら」

「運ぶの大変そうだな。おれたちも手伝ってやろうか?ここ、慣れてるし」



なんて鋭い眼光をする子だろうか。

特に、そばかすが印象的な子。

ナイフを突き付けられても逃げるどころかじりじりと間合いを詰めてくる子ども二人に、何故か訳も判らず怖じ気づく男たち。

思わず一歩下がってしまう誰かの喉がゴクリっと鳴ると、そんな緊迫した空気を一気にぶち壊すような陽気な声が辺りに響き渡った。



「なァなァ、二人とも聞いたか?こいつらすっげェお宝を持ってるらしいぞ!」

「んなっ!?このガキ……!」

「話を聞いてやがったのか!?」



思わず気の抜けてしまうような笑顔とは裏腹に、とんでもない事を打ち明かした少年。

手伝うと言ってこちらに近付いたのは、どうやら彼らの策だったらしい。

その一言を聞いた瞬間、一瞬にして血相を変えた男たちは素早く武器を手に取っていく。

一方、少年はと言うと「ルフィ、お前なァ〜……っ」と、正に計画を台無しにしてくれた末っ子へと恨めしそうに視線を向けながら項垂れているところであった。

これでは"作戦"が台無しである。

まあ、この"プランA"が計画通りに上手くいくとは最初-はな-っから思っていなかったので、この際どちらでも良いのだけれど。



「チッ、聞かれちまったらしょうがねェ」

「ガキだからって容赦はしねェぞ」



緊張感があるのかないのか……。

こちらは武器を構えているのに相変わらず危機感のない少年たちの様子に、いよいよ男たちの額に青筋が浮かび上がっていく。

そこには遠慮も情けもない。

先程とは違って殺気立っている様子は本当に殺める気らしく、彼らにとっては子どもを手に掛ける事など何とも思ってないのだろう。

無慈悲に向けられる刃の切っ先。

そういう手段も脅しの一つだろうが、生憎こちらも殺気を向けられるのは慣れっこだ。

結局こうなるなら初めからこうすれば良かったと、急遽"プランB"へと変更になった作戦に少年たちは互いに顔を見合わせる。



「行くぞ。サボ、ルフィ」

「ああ!」

「お、おう!」



それを合図に、少年たちは笑う。

何が楽しいのか大人たちには理解できないほど、挑発的かつ嬉々とした様子で。

背に持っていた愛用の鉄パイプを手に持ち、それをグッと力強く握り締めると。

勢いよく男たちに向かって飛び掛かった少年たちは、一気にそれを振り落とした。



「安心しろよ、もう怯える必要もねェ。今からそいつは……おれたちのモンだからな!」

「ガキだからってナメんなよ!」

「よ、よし!おれもやるぞォー!!」



やがて辺りに轟く豪快な音。

そんな音が響く激しい乱闘があった日には、皆口を揃えて言う言葉があった。

"悪童三人にはお気をつけなさい。でなければ、有り金全部奪われちまうよ……"。

それは、ここでは有名な話。

だから、それを知る者たちはわざわざ自分たちから無闇に悪童らに関わろうとはしない。

その話を先に聞いていたら、無謀に戦うことなどせずに逃げる選択も出来たのだろうか。



「うわっ!何だこいつら……!?」

「ガキのくせに、強ェ……!」

「バッキャロー!てめェら何ガキ相手に手こずってんだ!さっさと始末………ぐェッ!」

「ひっ!?あ、兄貴!兄貴〜〜〜っ!!」



何にせよ、判断はもう遅い。

彼らの隙を付いて荷物を奪おうと思っていたが、あの三人組が目を付けたなら自分たちではどうする事も出来やしない。

しばらく成り行きを見守っていたもののやがて騒動が始まったのを期に、静かに傍観していた者たちは「ご愁傷さま」とだけ呟いて潔くこの場を立ち去っていくのであった。

その誰かに向けられた言葉の意味を知るのは、今からたったの数分後のこと。

嘘かのように騒動がしん……っと静まり返っているゴミ山には、案の定五つの影だけがその場に取り残されていたらしい。

彼らが運んでいた荷物の行方を知る者は、今やこの場にいない悪童のみ知る秘密である。








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