終焉 (3/3)










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そして、その夜。



「「「かんぱ〜いッ!!」」」



と、カラン!とグラスを重ねながら陽気に祝杯を上げているのは例の悪童三人組。

山賊の家で騒ぐと誰かさんの煩い小言が飛んでくるので、今日は月明かりが綺麗な山の中でプチパーティーを開いているようだ。

パーティーといっても持ち寄ったものは山賊たちから盗んできた酒と日が暮れる前に獲ってきた魚くらいだが、薄暗い森の中でも少年たちの声はどこまでも元気である。

先程の大人たちを気絶させた時の気迫はどこへやら、今は年相応の無邪気さで此度の戦利品をキラキラした眼差しで手に取った。



「見ろよ今回の収穫!あんまり期待はしてなかったが、意外と持ってたな、あいつら」

「貴族目当てだからか、なかなかに質が良いモンばっかだ。こりゃあ期待出来るぞ!」



これでまた少し"海賊貯金"の足しになる。

少年たちには大きな夢があった。

それぞれが求める自由のために、大きくなったら海に出て海賊になるという夢が。

その為には莫大な資金が必要であり、ゆえに彼らは効率的に手っ取り早い"盗む"という方法で金目になりそうな物を奪うのである。

とはいえ、彼らが悪童だからといって何も誰彼構わずターゲットにするわけではない。

主に狙うのは海賊や悪どい商人たちからだけで、善人には決して手を出さないのが彼らなりの最低限のルールであった。

まあ……たまには予想が外れて悪人と間違えた善人を困らせたこともあるし、町での食い逃げなんて日常茶飯事な常習犯だけれど。

ともあれ、危険こそあれどもそういう者たちを重点的に狙うのは勿論奴等が大金を持っている可能性が大きいというのも一つの理由だが、何より悪人たちから盗むことに文句を言ってくるやつはここには誰もいない。

それが彼らにとって好都合だったのだ。

そりゃあ盗まれた当人たちは迷惑この上ないだろうが、どうせその金品も何処かから略奪してきたものに決まっている。

だったら自分たちは彼らと"同じ"ことをしているだけであり、何が悪いというのか。

その金がまた悪どい事に使われるくらいなら、ならば自分たちが使った方がマシだろう。

先程の男たちも名は知らないが海賊旗を船に掲げていたため、実力はともかく海賊だ。

それなりに航海をしているのかこの島では見掛けない珍しい品の数々に、どうしたって罪悪感よりも期待感が膨れてしまう少年らは、まずは骨董品類の選別から始めていく。



「そう言えばあいつら、"悪魔の実"がどうのって言ってたな………こいつの事か?」

「ルフィ。お前、"悪魔の実"食ったんだろ?こいつがそうなのかよ?」



そうして戦利品を整理していた時のこと。

ふと手に取った箱を開けてみれば、何やら黒い果実が入っていることに気がついて。

そこで海賊たちの会話を思い出したエースは、それを箱からそっと取り出したのだった。

質感や見た目的には確かに果実ではあるのだが、しかし果実というには明らかに異質な不気味さを放っているそれ。

子どもの手には少々大きいホオズキ型をした果実は闇夜に溶け込んでいっそう黒く。

こんなものが本当に"悪魔の実"なのか?と、これが1億の価値があるとは到底思えないエースが怪訝な目でそれを見ながら二人にも見せていく。

どうやらサボも疑っているようで、それなら唯一"悪魔の実"を見た上に食べたことのあるルフィへと二人の視線が向けられた。



「んー、よく判らねェ。おれ、"悪魔の実"だって知らずに食べちまったし」

「ははっ、ルフィらしいや」

「お前なァ……食い意地張りすぎだろ。それで一生カナヅチになるんだから人生無駄にしたな。おれなら絶対にそんなヘマはしねェ」



だが、当の本人がこの調子だ。

ルフィの呑気さはこの短い付き合いでも十分に判っているつもりだが、そんな簡単に後先考えず謎の多い"悪魔の実"を食べたのだと思うと兄としては些か心配にもなるもので。

その経緯を知ったサボは思わず呆れながら苦笑いを溢し、エースといえばもはや呆れを通り越して軽口を叩く始末である。

各々反応を見せた弟への対応には寒暖差があったからか、おかげで小馬鹿にされた部分だけ強調して聞こえたらしいルフィが途端にむっとしてエースに突っ掛かっていく。



「んだとォー!?カナヅチにはなっちまったけどおれはこのゴムゴムが気に入ってんだ!今に見てろよ!おれのパンチで後で泣きべそかいても知らねェからなー!」

「こいつ……!そういう台詞はまずはおれに一発当ててから言えっての!弱虫ルフィ!」

「あだだだだッ!な、何でだ!?ゴムなのに痛ェ〜〜〜!うわァー!サボ〜〜ッ!」

「はいはい、二人ともそこまで。しょうもねェことで張り合うなよ……こんな良い日に」

「「しょうもなくねェッ!!」」

「クッ……。息ぴったりじゃねェか。何だかんだでやっぱ仲良いな、お前ら」



おかげで始まった二人の喧嘩。

波長が似ているのかちょっとしたことですぐにムキになるルフィとエースは、相手の売り言葉に買い言葉で瞬く間に揉め事が勃発するのはいつものことだ。

不意に、エースの手を離れた果実がコロコロとルフィの足元に転がっていく。

口喧嘩どころか遂に手まで出しているエースはルフィの頬を伸ばしており、それに痛い痛いと泣き叫ぶルフィがサボに助けを求めるのもいつものことで。

だからサボは二人の間に仲裁に入ったのに、発した言葉の何がいけなかったのか……。

何やら"しょうもねェ"の一言に酷く反応したらしい二人に何故か理不尽に怒鳴られてしまうので、本当に兄弟らしいそっくりなエースとルフィの様子に堪らずサボが吹き出した。

仲が悪いのか良いのか……。

何にせよ、喧嘩ばかりではあるが以前にも増してエースが生き生きして見えるのは、やはりルフィの存在のおかげだろう。

エースと二人で過ごした時間も楽しかったが、弟が出来てから余計賑やかになったこの場の明るさにサボは一人静かに微笑んだ。



「取り合えず換金はしばらく先だな。あいつらきっとおれたちの事を探すだろうし、状況を見てその都度おれたちも動こう」

「確かに。威勢だけで弱ェ奴らだったけど、警戒しておくことに越したことはねェ。別におれたちは焦る必要なんてねェし」



ルフィへの怒りも冷めた頃、サボの言葉に頷いたエースがごろりとその場に寝転がる。

その近くではさやさやと揺れる白い花。

横になっているエースを覆い隠すほど高い背丈の花は見た目こそ素朴で今まで気付かなかったものの、森の中でひっそりと咲くその花は月明かりを受けて仄かに光り、まるで地上に星空が浮かんでいるかのような光景だ。

幼心に綺麗だと思うも、星形に開く可憐な花びらはそよ風を受けてゆらゆら揺れ、悪戯にエースの鼻を擽っているのが目に映る。

やがて想像を裏切らないエースが豪快なくしゃみをしたもので、その一部始終を眺めていたサボが不意にまた吹き出してしまう。



「あっ、何だこれ。すげェ!キラキラしたモン入ってるぞ!宝石かなァ、綺麗だな〜」



そんな二人の傍らでは、尚もお宝を物色しているルフィがある箱を手に取っていた。

箱を開けてみると入っていたのは髪飾り。

透明度の高い水晶は花の形をしており、鉱物であるにも関わらず本当に生きているかのように瑞々しさを感じさせる花飾りは、月光を浴びて美しく光っている。

宝石の価値など判らないけれど、光り物につい興味を引かれたルフィはそれをもっとよく見ようと、そっと花飾りに手を触れて。





────────"貴方を、待ってた"……。

「………えっ?」





刹那、キーンッと鼓膜に響いた耳鳴り。

それと同時に何故か見たことのない、ここではない何処かの海の景色が脳裏に流れ込み、悲しくもないのに不思議と目頭が熱くなるような切ない感情がルフィを包み込んだ。

今のは……いったい何だったのだろう?

一瞬眩暈まで感じた強い耳鳴りと共に聞こえた"誰か"の声に、しばらく呆けていたルフィはキョロキョロと辺りを見渡しながらエースたちへと問い掛ける。



「ん?二人とも、今何か言ったか?」

「いや、何も言ってねェけど……」

「それより、ルフィ……。お前、なんか身体が光ってねェか……?」

「え?」



エースたちの声じゃないのは判ってた。

だって、透き通る声音は女の声だったから。

だけどこの不思議な感覚が妙に擽ったくて咄嗟にエースたちに声を掛けたのに、何故か二人の方こそぎょっとしたようにこちらを凝視しているので、不意に視線につられて何となく自分の身体を見下ろしてみると。

そこには────────……。



「うわっ!?な、何だ、これ……!?」

「ルフィ!?」

「おい、身体が消えかけてるぞ!?」



透けている手のひらから見える二人の顔。

エースたちが言ったように、身体中が淡い光りに包まれている自身の姿があった。

しかもルフィだけではない。

周囲のものも幾つか発光しており、かと思えばどんどん光が消えていくと共にその物体たちまでもが透明化しているようで。

光が弱まっていけばいくほどルフィを通して背後に見える森の景色が濃くなり、本能的に危機を感じた二人は咄嗟に動き出した。

何故だろうか……いつもは煩わしいと感じるだけなのに、訳も判らずグズり始めるルフィの泣き顔が徐々に薄れていくことが、これ程までに"怖い"と思ったことはない。

嗚咽を溢す消えかけているルフィの右手には、唯一その花だけが目映く光り続けている。



「エ、エースっ!サボ!たすけ……」



ああ……ルフィが助けを求めている。

そう、だったらこういう時は兄が……。

兄が弟を守ってやらなきゃいけないのに、必死にこちらへと伸ばしているその手をグッと握ったはずのこの手は、虚しく宙を切って。



「「ルフィーーーッ!!!」」



やがてその場からぴたりと止んだ泣き声。

一瞬だけ、辺りに静寂が戻ってくる。

だけどルフィだけが何処にも見当たらない。

あの光り輝く花飾りを持って、一番賑やかな弟だけが目の前から忽然と消えてしまった。

それが悲しくて。

何も出来なかったことが悔しくて。

闇に隠れてしまったルフィを追い掛けるように、いつしかひっそりとした静寂の森の中ではエースとサボの声だけがいつまでも。

何日間もずっとずっと、響き渡っていた。







To Be Continued..






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あの終焉の日から
彼女は今も眠ったまま

そして運命は、また巡る
止まっていた歯車が、動き出す





Since..2022.09.09


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