五 求めよ。さすれば与えられん
侍従。教祖の側仕えのような存在である。
従者としての意味合いが強いらしい。突然私の地位が私の意思と関係なくランクアップしてしまったので、そこからは慌ただしかった。
入信してわずか一週間足らずで私の独房部屋は彼らの部屋と通じている小部屋--といっても彼らのに比べて小さいというだけで人が一人暮らすには十分すぎるほどの広さと装飾の施された部屋--へ移されることになった。
妙に生活感が漂うその部屋を使えと言われ、誰か使っていたのか聞くと、侍従の黒髪の女が使っていたらしい。彼女の所在を訊ねれば、「お前がおるから侍従からは下ろした」という。
呼び出されたあの時以来姿も見せない彼女から、仕事の内容を引き継いでももらえず、何をすればいいのか全く分からない。
双子に尋ねれば、「俺らの言う通り一緒に遊んでくれたらええ」とだけ言った。恐らく双子の身の回りの世話は侍従の仕事なのだろう。彼らがその存在を歯牙にもかけないだけで。
「あ、名前言うてたっけ」
「言うてへんな。こっちの残念なのが侑」
「あ?」
「んで。こっちのかしこな方が俺、治な」
カミサマとしては二人で一カウントみたいなもんやけど、区別できひんと仕事にならんしな。彼らはそう言って自らの名前を名乗った。
「まずは見分けつくまで頑張ってや」
「お仕えできること、恐悦至極でございます」
私は恭順を示すべく頭を垂れれば、彼らは私の頭上で嗤い「ええ心掛けやね」と、そう嘯いた。
彼らの言う"遊び"には、隠されていた意味があるのかと思っていたが、そうではないようだった。
一応禁欲といった類の戒律らしきものを謳っていたはずだが、双子の部屋にはありとあらゆるゲームハードが所狭しと積まれていた。曰く、信者を増やす以外の仕事がないのでとにかく暇なのだという。
(実はめちゃくちゃ駄神なのでは……)
「信者を管理すんのも教祖の務め、やっけ?」
「めんどいなあ、勝手に祈っといてもろたらええやん」
地べたに座りコントローラーを握り潰さん勢いで遊んでいた二人は、心底面倒くさいと言わんばかりに自らの仕事を唾棄した。
無辜の信仰を集める必要はあるが、その先に興味はない。破綻した理論を述べていることに自覚はあるのか。私には到底理解しようもなかった。
私もゲームに参加するように言われ、渋々手渡されたコントローラーを握る。据え置かれたテレビには往来の格闘ゲームの画面が映っていた。
「お前は、どう思う?」
どうしたら、効率よく信者を増やせるのか。治は私にそう尋ねた。
疑われるようなことを言えば、私の立場は間違いなく危うくなる。かと言って増やすよう助言をすればこの教団はネズミのように信者を生み続けていきかねない。ここ数日見ているだけでも片手で収まらない人数がこの場所に連れて来られている。状況を悪化させることは私の本意ではない。
模範解答を考えなくては。
私の操作する屈強な格闘家キャラクターのカウンター攻撃が決まる。
(あの時、“せんせい”は何て言ってたっけ……)
「……信仰は数ではなく、強さではありませんか」
YOU WIN、と書かれた画面を眺めて私はぽつりと持論を述べた。負けた侑と治は画面と私の顔を交互に見やって、そして互いの顔を見つめた。
「何でそう思う?」
「あ、いや……敬虔な信者こそこの教団には必要なのではないかと……」
咄嗟に出た言葉の真意を尋ねられて、思わずしどろもどろになる。信者を増やさずしても信仰の力を増やせばいい。その場しのぎの答えに何を言われるかとヒヤヒヤしていると、双子は意外にもあっさりと私の考えを飲んだようだった。
「そうか。そういうのもアリやな」
「え?」
「こういう時なんて言うんやっけ?」
「言い出しっぺの法則、な」
「それや」
侑は私の方に身を乗り出して、私の両頬を包むように手を添えると目を覗き込んだ。
「ほんならまずは、お前の信仰で試そか」
どろり、と彼の瞳孔の奥で何かが蠢いた気がし