四 接ぎ木
張り詰める緊張感に、口の中が乾く。
選択を誤るな。さもなくば、何が起こるか分からない。脳が警鐘を鳴らしている。
しん、と沈黙がいくらか続いた。
「あ、あの……」
「別に信じてなくても気にせんけどな、今は」
何とか弁解しようとする私の不安を気に留める様子もなく、彼らはそう告げた。
「まあ、この宗教ごっこに執心しとるわけでもあらへん」
「この教団やって信者のニンゲンが適当に作っただけやし」
「俺らに必要なのは“信仰心”、それだけや」
形はどうでもいいが、とにかく無辜の人々の崇敬が必要らしい。教祖が自分の教団にまるで興味がないなんて、聞いたことがない。今までのカルトじみたそれらとは一線を画している。
彼らが何を考えているのか分からない。未知は人間の根源から畏怖を呼び起こす。微かに指先が震えているのを、力を込めて抑え込んだ。
「……なぜ、必要なのですか」
「ニンゲンの信心は力やからな」
私の問いに、双子はそう答えた。
「力……?」
「俺らが神として存在するには、その力が要る」
信仰心がなければ自分たちは存在しえない、と加えて彼らは言った。
向かいに座っているこの瓜二つの顔を携えた彼らは人のはずなのに。その言葉に嘘はないように見えた。
「信仰のはじまりは、種みたいなもんや」「一から育てるんは時間がかかってしゃあない」「せやから直接、頭ん中に『接ぎ木』を植える」「俺らにはそれができるからな」
接ぎ木。
ある木の枝を人為的に切り落として、別の木の枝をその切った断面につなぎ合わせることで新しい個体を生み出す手法だ。
つまり信者の思想の枝を切り落とし、そこに彼らへの崇拝という新しい枝を繋ぎ一体化させると、彼らはそう言いたいらしい。
目の前の男たちは何かとんでもないことを口にしてはいまいか。膝の上で握りしめた手の内側に汗が滲む。信仰心をいきなり植え付ける?そんな芸当が、どんなカリスマでも人間に出来るわけがない。
「せやけど、お前はそれを拒んだ」
二つの双眸が、私を見下ろしている。爛々と光るそれは捕食者の目だ。気を抜けば喰われるという確信が背中にのしかかっている。一体何を拒んだというのか。恐ろしくて、とても聞けなかった。
「どうやら別の何かを信仰しとるみたいやし」
放たれた言葉に、ぴくりと体が反応した。私が、何の信奉者だって? あり得ない。
…… その道は、あの日にとうに捨てたというのに。
「せやから何で
「俺らもたまには正気のニンゲンと遊びたなってん」
きゅ、と細められた目は、無垢そのものだ。まるで新しい玩具を見つけた幼子のように。
俺らがお前を呼んだのは、ただ一つの命令のためだけや。彼らは口を揃えて言った。
「侍従になれ」「今日からお前は、俺らの遊び相手や」
その命令は、拒むことは許されない。重力が途端に膨張したかのように、ずしりと体が重くなる。
仕事のためには間違いなく教祖の素顔を間近で見れる格好のチャンスだ。しかしそれを一度飲んでしまえば、もう二度と後戻りはできないような、深淵の端に立たされているような、そんな感覚に襲われる。これでいいのだろうか。
「たくさん遊んでや。退屈しとるからな」
「お前のなかみ、まるごと全部――俺らに差し出してな?」
私の憂慮をよそ目に、彼らは蠱惑的な声色で、歯が痛くなるような甘言を囁いた。