ノールックで手を突っ込んだロッカーの中にいつもの柔い生地の感触がない。慌てて覗き込む。そこで初めて、オレは重大な忘れ物に気がついた。


「ジャージ!体育館に忘れてもうた!」


4限目の体育の授業の時に脱ぎっぱなしにしたまま体育館に置き忘れてきてしまったらしい。

「早よ取り行けや。もう昼休み終わんで」

クラスメイトの指摘に、壁時計に視線を移すと、確かにあと10分ほどで昼休みが終わろうとしていた。

「あー、取りに行ってくるわ」

部活動で放課後体育館には行くものの、今取りに行かなければ後々面倒なことになる気がしたので、クラスメイトに軽く告げて仕方なく教室を出る。

霜月の冷たさが辛酸のように肌に刺さって、思わず首をすくめた。早く部活に行って、身体を温めたい。


そんなことを考えながら階段を下りて体育館に向かう。

「あー寒……お前は呼んどらんわ治」


道中の下らない一人芝居と屋外の渡り廊下で一層身体が冷えたところで、オレは無人の体育館に足を踏み入れた。

「確かこの辺に…………ないな」

脱いだと思しき場所から忽然と消えたジャージの行方を、ぐるりと見回して探していると、ふと壁際の体育倉庫の引き戸が開きっぱなしになっているのが目に入った。その瞬間、

“ 体育倉庫の扉は開けたらちゃんと閉めんか。自分ら、まさか家でもドア開けっ放しにしとるんか? ”

以前そう言って部員たちを震え上がらせた部活の真面目過ぎる主将である先輩の姿が脳内で見事に再現され、オレは最早脊髄反射のスピードで扉の元まで走った。

走ってきたところで今は部活ではないことを思い出したのだが、まぁついでに閉めておこうくらいの気持ちで扉の取っ手に手をかけた、その時だった。

コート用のポールや跳び箱、ボールの入ったカゴ、用具たちの隙間から――


人間の、足が見えた。

夢で逢えばなんとやら



prev | next
もどる

back to top