「なんでこんなところで寝とん」
「ここが一番誰にも邪魔されずにお昼寝が出来るから」


ジャージを受け取ってそう尋ねると、そんな答えが返って来た。


「昼寝?」
「お昼寝しないと午後の授業起きてられないの」
「寝とったらええやんか」


午後の退屈な授業は部活に備えての睡眠時間だと思っているオレがそう言うと、彼女はくすくすと肩を震わせて笑った。

「確かに宮くん、いっつも寝てるもんね」
「なんで知っとん」
「だって、同じクラスだし…………」


控えめな上目遣いに罪悪感が募る。
興味を持った人間以外に対する関心の薄さ(自覚はある)がこんなところで裏目に出るとは思いもよらず。

「あー……名前なんやっけ」
「なまえ」
「せや、なまえな……」


名前を聞いたところで知らないものは知らないのだし思い出せるわけがないのだが。

「宮くんが有名人だから私は知ってるだけだし、無理して覚えなくて良いよ」


彼女――なまえはそう言うものの、覚えないわけにはいかない。



現金だが、俄然興味が湧いた。

この感情にはどんな名前が付くのかは知らない。別にわざわざ名前がなくとも構わない。

オレはウサギ穴を見つけたキツネのように心の中で舌なめずりをしながら人懐っこい笑みを浮かべて(名前)にこう話しかけるのだ。

「なぁ、ここのこと他に知っとる奴おるん?」

*

「そら“眠り姫”やんか」
「なんやそのメルヘンな二つ名は」

家に帰ってから双子の片割れになまえの話をすれば、ヤツは彼女のことを知っているらしかった。

「よう机に突っ伏して寝とるけど顔上げたらめちゃくちゃ美人やからな。オレら男子の間じゃ結構有名やけど。高嶺の花やって」
「…………そうなんか」
「急に何を聞くんかと思えば…………あ、分かったで。侑、なまえのこと好きやろ」
「はぁ!?何でやねん!」

こういう時に双子は厄介だ。

言われてみれば、という話だが、オレは彼女が好きなのだろうか。一目惚れに近いものがあるのは確かだった。あの場所で出会って、呼吸も忘れて、食い入るようにその姿に見惚れて、彼女に触れてみたいと思った。


「オレも好きやし」
「あかん!!治になまえはやらへん!」

オレが慌てて制止すると、ソファで少年漫画の週刊誌を読んでいた治は怪訝そうに眉間のしわを深くしてオレを見た。

「付き合うてもないくせに何言うてんねん。…………ま、オレは別に付き合いたいとかは思っとらんけど」
「えっ、何でや!?」
「顔が好きなだけやし。飯食うとる時急に寝られても困るやんか」

その言葉の意味が分からず顔を見返すと、治はやれやれといった様子でおもむろに口を開いた。

「知っとるか侑、あの子は所構わず急に眠ってまうから“眠り姫”やって言われとるんやで?」

Rabbit Hole



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