遭遇


これはもしもの話。
もしも、あの時彼と夢の中の千本鳥居で出会わなかったら。
その先の「平行線上」の、或いはあったかもしれない物語。



「わあ、“ニンゲン”や!」
四つの瞳が、私を食い入るように見下ろしていて、私の顔に彼ら二人の影と木漏れ日が落ちた。
二人、と呼んで良いのかすら分からない。彼らは人の形をしているようで、実のところ全く似つかないものでもあった。
人が持たざるものである黄金の耳と尾。
爛々とこちらを見つめる獣の目。
まさしく"狐"。彼らから感じる気配はそういったものだった。
そして瓜二つの顔。およそ神の造物であろう長駆のこの双子は、恐ろしいほどの美貌を携えていた。
そして彼らが身に纏っている近年見かけることのなくなった赤い紐の袖括りが通された黒の狩衣は、余計にその崇高さを掻き立てているようなものだった。
こんな狐が化けて出ようものなら人々は簡単に騙され、瞬く間に彼らの餌食になることだろう。それは想像に難くなかった。
「久々やなあ」
「ほんまやで、外の空気吸うのも何年ぶりやろか」
二人は(そう呼ばなければ収拾がつかないと思ったのでこう呼ぶことにする)そう言って顔を見合わせた。
私が彼らの話に口を挟む余地はなく、
「不思議な匂いのするニンゲンやで」
片方が私の首筋に鼻先を寄せてすん、と匂いを嗅いでそう言えば、もう片方は頷く。
「せやけどちゃんと資格はある」
「ん、オレはこの人がええな」
「奇遇やなあ、オレもやわ」
そして二人はアイコンタクトで何やら意思を交わしたらしい。
「オレ前な」「せやったら後ろ」
双子は私の前後を挟むように立つと、それぞれ頬と肩に手をかけた。
「な、何するつもりなの…………?」
ぞわり、と背筋に冷たいものが伝う。
「そないに怯えんでもええんやで。ちょいチクーっとするだけやもん」
見上げた彼の顔は、笑っているようで目が笑っていない。本能的な恐怖で身体が強張る。
「やめて!離して…………!!」
「あー、大人しゅうせんともっと痛なるで」
逃げようとしても手首を強く掴まれれば逃げ道も失ってしまう。
私をどうするつもりなのだろうか。殺して食べてしまうのだろうか。
「いや、殺さへんよ?お前みたいなトクベツなんは初めて見たし」
前に立っていた方がまるで私の考えを読み取ったかのように答える。
殺さない。その言葉は信用に足るものだろうか。
一瞬の迷いを悟られたのだろうか、
「これからよろしゅうな。オレらとぎょうさん遊んでや」
「骨の髄まで愛したるからな」
その言葉を合図に、彼らは私のシャツの首元を引くと、二人が一気にそれぞれ左右の首筋に牙を立てた。
ずぶり、と鋭い痛みと何かが身体の中に侵入ってくる。この感覚、どこかで…………
「あ、あ…………痛い、いた、い…………」
目の前が徐々に靄がかかったようにぼやけていく。
どのくらい時間が経ったか分からない。
この悪夢がどうか早く終わって欲しい。
そう思ってゆっくりと瞼を閉じた。

どうか、この答えが間違っていませんように。



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