【現パロ】

 さむい、さむい、さむいっ。

 惑星の公転だの自転だのの関係で巡ってくる季節。夏は暑くなるし、冬は寒くなる。毎年のことだというのに、その季節がめぐる度にその寒さや暑さに文句をつけている気がする。
 今は冬、ビューっと冷たい北風が吹き抜け度に体の芯から冷えていく。足先の感覚は少し前に死んだ。指先もかじかんでいて、手袋をして来なかったことを心底後悔している。

 散歩ついでの昼ご飯を探す旅は遭難一歩手前。腹は減っているし、寒いし……これは凍死の危機ってやつじゃないだろうか?
 この現代社会の中で凍死するってことそうそう経験出来ることじゃない。しかし、それを経験するのが自分になるのは御免被りたい。

 元々昼ご飯を探しているのだからどこか定食屋でもいいし、カフェでもいい……とにかくどこか寒さをしのげる場所に逃げ込みたい。だが、そういう時に限って飲食店というのは姿を隠してしまうものだ。
 必要な時に見つからない。それは店だけでなく、持ち物でも言えることだ。手鏡とかたまに行方不明になって新しいものを買った途端に発見される……なんてザラに起こることだ。

「…………コンビニでいいか」

 ようやく見つけたのは牛乳瓶のマークと青い看板が目印のコンビニエンスストア。一時避難、と言うには絶好の場所だ。ついでにカイロ代わりのホットの飲み物でも買っておけば移動も多少は楽になるだろう。と店内に入れば暖房がしっかりと効いている。外から入ってきたばかりの冷えきった体には手厚い歓迎だ。

 目的はホットドリンク。レジ内で作ってくれるホットコーヒーにも心を奪われながらもまず確認するのは、ペットボトル。
 コーヒーに紅茶、緑茶にココアにほっとレモン……どれにしようかな……と上の棚から順繰りに眺めていき、甘いカフェラテを手に取り、レジに向かう。

「…………あ」

 レジ横にある蒸し器。
 その中には肉まんやあんまん……といった中華まんがホカホカと蒸されており、その蒸し器の中から出される瞬間を心待ちにしている者ばかりだ。そのなかにあるひとつの存在に目を奪われる、いや、目が合ってしまった。

 つぶらな黒目の瞳に赤いトサカ、黄色の嘴にその下のには赤い……なんという名称なのだろうあごにぶら下がっている部分……それもしっかりと再現された真っ白な中華まんとバッチリと目が合ってしまった。

 それはもう、運命というように目が合ってしまった。

「あ、あとそれ、からあげくんまん、ください」

 目が合ってしまったからには、買うしかない。

 店員の声を背中に受けながらコンビニを出る。風は相変わらずの冷たさだが手にはあったかいペットボトルを持っているのもあり、少しだけ、少しだけその寒さを堪えることが出来る。

「温かいうちに……」

 空腹も相まって買った食料に手をつけようと早速ビニール袋をガサゴソと鳴らしながら取り出す『からあげくんまん』その可愛らしい見た目に食べることを躊躇してしまう。

 つぶらな瞳がこちらを見てくる。訴えてくる。

「食べちゃうの?ボクのこと食べちゃうの?頭からムシャァって頬張っちゃうの?」

 と可愛らしく訴えてくる声が聞こえてくるような気がする。

 目が合ったから、買ってしまったが……こんなにも可愛らしいものを食べれるだろうか?いいや、食べれない!!

「うまっ……」

 お尻側から食べれば目が合うことはないから美味しく食べることが出来る。そう気づくのに時間はかからない。
 照り焼きソースの味が中華まんの皮とベストマッチ。中の鶏肉も美味しい……!!
 なにより熱々の中華まんだ。お腹の中から温めてくれる存在に満足感に満たされていく。






2018/01/12 イラストは裏畑波瑠様(前ぴょん様)に描いていただきました。


とある弓士のお話