ボクは琥珀っていいます。
 一緒に住んでいるのは、こおむ……クオムっていう金色の髪に青い目の人。女の人なのに男の子みたいにしてることもある人。
 ボクの大切な人。大好きな人。

「母の日?」

 ボクがそれを知ったのはいつものお勉強の時間だ。色々なことが知れるのは楽しいが、厳しい先生のしーちゃん……紫闇(シアン)という長い黒髪をボクとお揃いの1本結びをしている女の人。紫色の瞳は少し怖い時もあるけど優しい色をしている。いつも詰襟のワンピースを着ているのもあってイメージは固い感じに見える。
 しーちゃんが教えてくれたんだ。

 母親、という人に感謝を示す日。

 ボクのお母さん、という人はわからない。覚えていないからわからないのか……最初から存在しないのか……それすらもわからない事だ。

「琥珀にとってはクオム様がそれにあたると言っても過言ではない、かも知れませんね」
「こおむがお母さん?」
「本人に言っては、憤慨なさるかもしれませんけどね」
「ふん……が、い?」
「とても怒る、ということです」

 しーちゃんは色々なことを教えてくれる。言葉や算数、そして戦い方も……まだ勉強中のことは多いけどしーちゃんは根気強く教えてくれている。厳しい言葉がたくさんで、泣きそうになると飴をくれる。本当は優しい人だってボクは知っている。

「ボクにとってもクオム様は大切な、母……とは違いますが感謝すべき相手ですから、なにか贈ろうとは思っています」
「………ボクもなにかあげたい」

 感謝を伝えるのは言葉だけでもいいのだと教えてくれた。確かにそれでもいいんだ。いいんだけど違う。もっと……なにかなにか渡したいんだ。

 どこかの世界の文化が定着したようで、冬の開けたマッジョ(5月)、2回目のドメニカ(日曜日)が母の日になっている。
 今日は2回目のヴェネルディ(金曜日)。前もって準備をするにはあまりにも時間が足りない。そう感じると耳が垂れる。尻尾にも元気が向かずに下を向いてしまう。
 その様子を見ていたしーちゃんは顎に手をかけて考えてます、のポーズを取っていた。少ししてからその唇が開かれると……

「そうですね。……定番ですがカーネーション、ガロファノを贈る、というのはどうですか?」
「かーねーしょん?がろ……?」
「お花です」

 しょんぼりとしているボクを見かねたのかしーちゃんは提案をしてくれた。お花ならば確かに用意は出来る。
 この町にもお花屋さんはある。そう言えば、最近は赤やピンク、白い小さな花がたくさん並んでいたのを見ていた。あれがしーちゃんのいう花、なんだろうか。

「こういう花、ですね」

 しーちゃんが見せてくれたのはお花と花言葉の記された本だ。そこに載っている花は最近花やさんで見かけていた小さな花と同じに見える。
 書かれた文字をゆっくりと追う。難しい漢字は少ないその本を選んでいるのはしーちゃんの優しさなんだろう。

「青いのあるの?」
「青は、自然界にはない色です」
「作るの?」
「えぇ、着色をしたり、品種改良で青に近づけるということはしているようですね」
「青いのをこおむにあげたいな、ってボク思ったの」
「青ですか……」

 青いカーネーション。その意味は「永遠の幸福」そう書かれている本を見ればそれを渡したい。こおむには幸せでいて欲しい。
 でも、しーちゃんの表情はくらい。どうやら青いカーネーションは町の花屋さんには並んでいないらしい。

「ないなら作りゃいいんだよ」
「ぴょん」
「ぴょんいうなって」
「ぴょん様」
「いや、マジやめて?紫闇それはダメだ」
「かしこまりました」

 お勉強部屋に突然現れたのはサラサラと長い銀髪を靡かせた女の人。赤みの強い赤褐色の瞳は釣り目がちでキツい印象にも見えるが、とても話しやすい人。いつもたくさん遊んでくれる人だ。服装もシャツにジャケット、カーゴパンツを愛用しているからいっぱい遊んでくれる。
 この人はゼン。こおむの幼馴染で一緒に仕事をしている人。ぴょんと呼ぶのはこおむがそう呼ぶからだ。

「んで、本題。ないなら作っちまえばいい」
「花を……ですか?」
「そう。造花なら簡単に作れるだろ」
「お花作れるの?」
「作れる作れる。何なら私が手伝うよ」
「ほんと!?」
「あぁ、んじゃ、これからは工作の時間だ」

 パンッ!!とぴょんが掌を合わせた音が響けばしーちゃんは、勉強道具を片付け始める。それに釣られるようにボクも机の上に並べていた本や鉛筆を片付ける。




とある弓士のお話