昇格

いくら頭が良くても強くても、不死身でない限り寿命には勝てないのだ。

上司が息を引き取った。
この世界にいてベッドの上で死ねるなんて稀だ。
葬儀が終わり、喪服姿のチームメイトと顔を合わせる。此処に配属されてから5年以上経っており、此処が私の終着地点だと思う。
情報管理チームとでも言うべきか、必要ならば戦闘も辞さない専門部隊だ。

「幹部の席が1つ空いたな」チームメイトの1人が煙草を吹かしながら口を開く。上の席が1つ空いたからといって、すぐに候補者が座れるわけではない。幹部は私達のような専門部隊を2〜3つ程管理しているので取り纏める力や、第一に幹部になる為には億単位の上納金が必要である。
そんな何人も大金を即座に用意出来るわけではない。

「他のチームから反感を買ってたみてぇだし、後釜になる奴は尻拭いになりそうだ」
「あの人…報酬を中抜きしてたらしいじゃねぇの」
「みたいだな。今まで気づかなかった」
「今それを知ったところでもうこの世にはいないがな」

口々に元上司について語り出すが、いい人ではなかったようだ。時々パーティーに付き添っていた身ではあるが、確かに傲慢なところが見られた。高ぶって人を見下すような人だったが、用心深いところもあった。

「名無子…少しいいか」
「ペリーコロさん」

幹部の葬儀のため、当然彼も来ていた。チームメイトに一声掛け、人気のない場所に移動した。

「お久しぶりです」
「ああ。元気そうじゃな」
「貴方も」

淡々とした会話が、すごく緊張する。彼に余計な会話をしてはいけないと意識してしまう程、相変わらずプレッシャーを感じる人だ。

「単刀直入に言う。彼の遺産は君が知っているのか?」
「…何故そう思うのですか?」

嗚呼この人は本当に鋭い方だ。あの日からずっと変わらず。

「複数の専門部隊がおって彼の側近のような位置にいたのは名無子だからだ。一方的に気に入られていたというのもあったがな…それに、君のスタンド能力」

何故ペリーコロさんがスタンド能力無しに幹部でボスからの信頼を受けているのか、それは相当な頭の良さではないか。こういう人がポルポさんの試験を真面目にこなす忠誠心が強い方なのだろう。

「名無子のスタンド能力は何も無い空間から槍や剣を出して放つことじゃが、物を収める事も出来るんじゃないか?」

本来は収納に利用していた能力だけどね。
スタンド能力があるものにしか理解出来ないと思っていたが、ペリーコロさんは本当に頭のキレるお人だ。

「はい。その通りです。私が遺産を所持しています」

人を見下すような一見、強気な元上司は臆病でもあった。組織が管理している銀行に預けているもののそれは全てではなかった。現金だとかさばるから宝石や貴金属に変え、自宅だと不安だから私のスタンド能力を利用して隠した。少なからずとも信頼を受けていたのだ。

スタンド能力を発動し、宝石を取り出した。
ペリーコロさんは一瞬目を見開くも、直ぐに表情が戻る。

「数億相当の宝石を預かりました。これはペリーコロさんにお渡しすればよろしいですか?」
「そうじゃが…名無子、君は本当に信頼に値する働きをするんじゃな…それを使って幹部になろうとは思わんのかね?」
「私が幹部に?」

あの日から5年以上経つが生活に平穏が訪れたことは無い。そりゃ裏の世界にいるからだが、今の地位から上にいけば、時々怪我をしたり情報収集とはいえターゲットに色目を使わずに済むのではないか?
でもこれは…

「これは…私の物ではありませんし…」
「口座は凍結し預金は全てボスに送られたが…君が持っているその宝石達は誰の物でもない。強いて言えば今持っている君の物になる」

ペリーコロさんこそ手に入れようとは思わないのか。嗚呼だからこそボスに信頼されて幹部でいるのか。

「私は…あの時、生きる事を優先しました。裏の世界だから危険が付き物ですが、今よりも生きれるでしょうか」
「それは、君次第じゃ…その金が示す事実は頭脳と信頼だ。今の君にはそれがある…名無子」

真っ直ぐ私の目を捉え、逸らすことはできない緊張に喉が締め付けられそうだ。

「君を幹部の地位に昇進させよう。これからも組織の為に尽くしてくれ」

既に表に戻れない世界なのならば、とことん生きてみせよう。この宝石達は私を前向きにさせた。
ペリーコロさんに遺産を渡すべく宝石達を次々に取り出していく。それを見ていた彼は「まるで宝物庫じゃな」と呟いた。