ドルチェと部下

今は亡き元上司はよくもまぁ生きてこれたなと感心した。
スタンド能力を持たず、幹部の座にまで着いて維持をする程には実力があったのだろう。側近という名のボディーガードをしていたが、特に今まで闇討ちなるものはなかった。もしも狙われでもしていたら逆に敵の方が危うくなる。元上司が管理していたチームを知ったら、恨みがあっても手は出せない。情報管理チームと暗殺チームだからだ。

「まさかこのチームを管理していたとは」

むしろよく管理できていたもんだ…
幹部になった私は、ここのところ引き継ぎ作業ばかりしていた。一日中パソコンに張り付いているのは問題ない。情報管理チームにいたからドキュメント整備は慣れこっだ。

ギャングである以上犯罪行為が仕事だが、中には縄張りにより他組織への威嚇となり治安維持にも繋がってはいる。とある地区では街の人達に好かれているギャングもいる程に。
ペリーコロさんのように尊敬されるような元上司ではなかったが、なるほど。この2つのチームで周りを威嚇していたのか。

情報管理チームに所属していた時はパソコンに囲まれた決して広くはない部屋で過ごしていたが、幹部となると本部に専用の部屋が宛てがわれた…元上司のだが。毎日引き継ぎ作業をしつつ案件や部下への依頼をやり取りしている。
情報管理チームは挨拶は済んでいるため、暗殺チームへ顔合わせに行こう。
そうだ、暗殺チームと言えば。

*

「やぁ!その後調子はどうですか?」
「…幹部だったのか」
「上がったのはつい最近ですけどね」

メールでアポを取り、近くのカフェで落ち合った。もっと驚いてくれるかと思ったが、少し間を置いただけで席に着く。

「ドルチェ頼みます?」
「いや…エスプレッソを」

せっかくドルチェの美味しいカフェを選んだのに、勿体ない。此処のティラミスは絶品なんだ。でも今日はカンノーリな気分なのでテーブルに届くのが楽しみだ。

「改めまして。名無子です。今日は顔合わせとして来ました」
「リゾットだ」

なんだか先日よりも素っ気ないような態度ではないか。そんなに私が幹部である事が腑に落ちないのだろうか。
しかしわざわざ会ってくれたので時間を無駄にしないよう早々に今後の方針を説明する。
基本的に依頼の手順は今までと変わらず、臨時の案件は私が直にリーダーであるリゾットくんに依頼をする。

そうこうしてるうちにカンノーリが到着した。話を中断し、私の意識はカンノーリへ。
筒状にした小麦粉ベースの生地の中にはチーズやバニラを入れ揚げてある。口の部分にピスタチオやチョコレートが掛けられとにかく甘くて美味しいドルチェだ。

「カンノーリか」
「これ好きなんですよ」
「グラニータも美味い。子供の頃よく食べていた」
「夏はグラニータですよね。私は特にオレンジのシャーベットが好きです」

どちらもシチリアを代表するドルチェだ。
それにしても驚いた。仕事以外の話もするのか彼は。子供の頃ということはシチリア出身なのだろうか。

もう少し脱談しようと口を開こうとしたら、彼は顔をしかと私に向けた。

「1つ相談がある」
「え、はい…なんでしょう」
「報酬についてだ」

そこで私は察した。以前チームメイトが言っていた、元上司が報酬を中抜きしていた事を。その被害者は暗殺チームだったのか。管理してるチームは他にないし。

「…仕事内容のレベルにもよるが、報酬の額を上げてほしい」
「そりゃ勿論」

即答に驚いたのか。彼の眉が一瞬揺れた。私は続ける。

「組織の戦力となるチームですからね。それ相応の報酬は見直しますよ。むしろなんで…今まで…本当に申し訳ないです」

元上司に代わりお詫びします。
人の心を豊かにするのはやはりお金だ。お金があれば余裕が生まれる。元気よく仕事をしてもらいたい。暗殺だけど。
今まで元上司が命を狙われなかったのは2つのチームが脅威となっていたからだが、暗殺チームが謀反を起こさなかったのは奇跡でしかない。スタンド使いは組織にいるが、彼らのスタンドは暗殺に特化しているのだろう。殺しのプロの報酬を中抜きなんてほんと元上司は正気ではないな。

「随分と話がわかるんだな」
「え?ああ、部下の要望に応えた方がいいって…これに」

どジャアァぁぁぁ〜〜ンと鞄から本を取り出し、表紙を向けた。タイトルは『初めて部下を持つ上司の本』!

タイトルをしっかり確認したリゾットくんは瞬きをして、口端が少し上がったのを、私は見逃さなかった。