16

「きゃあ! シンタローさんのおじ様ですってぇ!」
「んまァス・テ・キ!」
「お肌スベスベねー!」
「どうも」
「髪サラサラねー!」

 パプワからサービスを紹介されたイトウとタンノは先ほどからずっと興奮しっぱなしで、キャーキャー言いながらサービスに絡んでいる。サービスはと言うと、明らかにおかしい巨大なカタツムリとタイのオカマを前にしても、涼しい顔でさらりと流している。これが大人の余裕ってやつ……?
 
「テンション高くない?」
「やだァ、当たり前でしょレオちゃん!」
「ご親族に会えて嬉しいのは嫁として当然よォ!」
鬼のいぬ間に図々しい発言してる

 知られたらまたシンタローに眼魔砲で吹き飛ばされるぞと思いながら、レオは半笑いになる。

「んもォ! せっかくおじ様がおみえになってるのにシンタローさんたらどこ行ってんの!? 私探してくるわー!」
「キャー!私もよォ!」

 全く戻ってこないシンタローに痺れを切らせたタンノが突如走り出し、イトウもそれについて行くために走り出す。そんな2匹の前にコロンと下駄が転がる。

「え」

 その下駄に目をやった瞬間、2匹に稲妻が降りかかる。

「なんだ?!」
「この下駄って……!」

 見覚えのある下駄にレオが目を見開くと、いつの間にサービスの背後に現れたトットリが、サービスに刀を向けていた。

「サービス様お命頂戴!」
「……トットリか」
「覚悟ッ!!」

 サービスに斬りかかるトットリだが、あっという間に剣を持つ手を取られて、そのまま背負い投げされる。成人男性が軽々しく飛んでいく様子に、レオの目が点になる。

「ずわッちゃあ!」
「トットリ! よぐもオラのベストフレンドをォオ〜ッ!!」

 受け身も取れずに地面に落ちるトットリを見て、隙を伺っていたはずのミヤギも勢いよく飛び出して来る。生き字引の筆を片手に持ち、サービスに向かっていくが、呆気なくサービスに蹴りを入れられて、トットリの横に倒れ込む。

「な、なんでみんなサービスさんに挑んできてんの……?」
「ふむ……?」

 状況が飲み込めずに、思わずパプワに問いかけてしまうレオだったが、もちろんパプワにもわかるはずがない。
 汗ひとつかかずにミヤギとトットリを無力化したサービスは一点を見つめて口を開く。

「いつまで見てるつもりだシンタロー!」

 サービスの視線の先の木の影から現れたのは、いつになく真剣な顔をしたシンタローの姿だった。複雑そうな顔で口を開く。

「おじさん」
「たくましくなったなシンタロー」
「……親父に言われて来たの?」
「その通りだ。おまえを兄貴の所へ連れて帰る」
「嫌だと言ったら」
「力ずくでも」

 叔父との再会にしては殺伐とした雰囲気にオロオロするレオだったが、特に焦る様子もないパプワを見て少し落ち着く。それに以前のジョッカーの戦いの時のような、怖い感じがしないと言うか……。それがいまいちレオに緊張感を持たせない一因になっていた。

「アラシヤマ!!」
「!」
「いくで!」

 シンタローの呼びかけで、サービスの背後からアラシヤマが飛び出す。流石にそれには少し驚いた様子のサービスに、シンタローとアラシヤマは自分たちの必殺技をぶつけていく。

「眼魔砲!!」
「極楽鳥の舞!!」

 激しい砂煙が当たりを舞う。

「やりはったか!?」
「いや、まだだッ! 手を休めるなアラシヤマ!」
「ちいぃッ! かないまへんなッ!!」

 シンタローとアラシヤマは手を休めることなく、何度も技を放っていく。眼魔砲の光と炎の眩しさで目の前がチカチカとして、少しだけ目が眩む。

「わーい! 花火花火!」
「わぅー! わぅー!」
「た〜まや〜!」
いーわね! あんた達気楽でッ!!

 楽しそうにはしゃぐパプワとチャッピーに釣られてレオも声を上げると、シンタローが泣きながらツッコミを入れた。

「シンタローはん!」
「どォした!」
「あッ……あれ……あれ!」
「!」

 半泣きのアラシヤマが指をさす方に、無傷のまま佇むサービスの姿があった。禍々しい色をした何かを片手に担いで立っている。

「おおお俺たちがぶっ放した技を〜……」
「かついでなはるゥゥ〜!!」
「そら」
「「どっえ〜!!」」

 ごく軽い感じに自分達の攻撃を投げ返されたシンタローとアラシヤマは、情けない悲鳴をあげながら吹き飛んでいく。

「だッ!」
「覚悟はできてるなシンタロー!」

 背後から近づくサービスにシンタローは思わず唾を飲み込む。そして……
 
「いでーッ! いでーッ! やめろォ! やめろォ!」
「悪い子にはおしおきだ!」
「やめろォおじさんッ! 俺24だぜーッ!!」

 叔父におしおきで尻叩きされる24歳男性の図。堪えきれずにレオはその場に崩れ落ちる。

「あっははははは〜!!」
「やーい! 尻たたき尻たたき」
「あははははっ……ひぃ〜!」
「うるへー!! てか、レオおまえ笑い過ぎだ!!」

 サービスのおしおきが終わった後、シンタローは不貞腐れたように座り込む。

「シンタロー……。おまえは私や兄貴を越えなければいけないんだ。なのにマジックから逃げ出してどうする」
「俺はッ……俺はコタローに会いたいんだッ!」
「シンタロー。コタローのことはあきらめろ。私と一緒にマジックの所へ帰ろう!」
「どォしてだよ! どォして親父もおじさんもコタローの存在を無視すんだよ! コタローが何かしたのかよ! なんで隠すんだよ!!」
「…………」

 シンタローの叫びにサービスはじっと黙った後、おもむろに自分の髪をかき分けて、隠されていた右側の顔を晒した。右眼が抉れた状態の痛々しい傷跡に、レオは息を飲む。

「シンタロー……私の右目のことは知ってるだろう」
「あ……」
「私の右目は秘石眼だったんだよ」

 サービスが語り出したのは、初めて戦場に出た18歳の時の話だった。シンタローに似た親友と過酷な戦場を生き残る為に、初めて秘石眼の力を解放した時の悲劇。
 おそらく、その人が先ほどサービスから聞いた、レオに似た人物の絵を描いていた人物なのだろう。亡くなったと聞いてはいたが、まさかそんな事情があるとは思わず、レオは胸を痛める。

「私はその場で自分の右目を抉った!」

 悲痛なサービスの声が響く。誰も何も言えなかった。

「私ですら秘石眼はコントロールできなかった。両目とも秘石眼でありながら、その力をコントロールできるのはマジックだけだ!」
「……それがコタローとなんの関係があるんだよ」
「兄貴もいずれお前に話すつもりでいたらしいが……コタローは両目とも秘石眼だ!」

 シンタローの弟であるコタローが幽閉された理由は酷く残酷なものだった。シンタローも何も言えなくなってしまう。

「コタローの力が暴走すれば多くの犠牲者が出るだろう。だからマジックはコタローを幽閉した」
「そ……そんな……」

 しばらく沈黙した後、サービスはシンタローの目をまっすぐ見て口を開く。

「シンタロー。私と一緒に日本へ行くか」

 別れは、目前に迫っていた。
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