15
「森トンカツ、泉ニンニク」
「かーコンニャク、まれテンプラ」
楽しそうに森を散策することエグチとナカムラの視界に、見慣れぬものが目に入る。警戒心を抱くことなく近づいて行くと、彼らにはそれが大きな鳥の様に見えた。
「あれェ?」
「なんだこの鳥!?」
「10円キズつけちゃえー!」
「こら君達。そんな事しちゃだめだろう」
彼らの後ろから声がかけられると同時に、ナカムラをひょいと抱え上げる1人の男性が現れる。
「おじさんだーれ?」
「ヒ・ミ・ツ」
首を傾げながら問うナカムラに、美しく微笑みながら男は答える。そして、ナカムラを優しく下ろすと、再び口を開く。
「さっ、いい子だかはお家にお帰り」
「はーい、またねー」
「ばいばーい」
大人しく帰路につきながら、2匹はこそこそと話を続ける。
「誰だろーね、あの人」
「悪い人じゃなさそーだね」
楽しそうにくすくす笑い合いながら、2匹はパプワハウスへと足を進めていった。
ちょうどその頃、レオはキッチンに立ってのんびりとお皿洗いをしていた。亀の様な歩みではあるが、レオのお手伝いスキルもレベルアップしており、お皿は5回に1回ぐらいしか割らなくなっている。最後の一枚を丁寧に布巾で拭いてから、レオは外で洗濯物をしているシンタローを手伝う為に表へと出た。
「シンタローさぁん、手伝うよー……ってあれ、いない」
表にはパプワとチャッピーが遊んでいるだけで、シンタローの姿はない。ただ、やりかけの洗濯物が残っているだけだった。
「ねぇ、パプワくん。シンタローさんどこ行ったの?」
「知らん! なんか血相変えてどっか行ったぞ!」
「洗濯物を放って……?」
シンタローの主婦らしからぬ行動にレオは怪訝な顔をする。
「お腹くだしたのかな……?」
シンタローにとって不名誉な推理を展開しつつ、レオはシンタローがやり残した洗濯物を済ませると、干す為に重たい洗濯物を持ち上げる。
「ぐぬぬ……重い……」
「オイ、大丈夫か?」
「ん、大丈夫……これぐらいならいけそう!」
若干よろけつつも、レオは物干し竿がある場所へと足を進める。
「じゃ、シンタローさんが戻ってきたら、私が続きやっといたって伝えといてね〜」
「ああ。こけるなよ」
「ふっふっふっ……洗い物で皿を1枚も割らなかった今日の私が不覚を取ることはないのだよ」
「フラグを立てるナ」
物干し竿の前に到着すると、一枚一枚洗濯物を干していく。最後にシンタローのズボンを手に取って、皺を伸ばす為にパンパンと軽く引っ張った時だった。ビリッと嫌な音がして、レオは手を止める。
「いやまさか……そんなまさか……」
恐る恐る洗濯物を広げて確認すると、シンタローのズボンの尻の部分に小さな裂け目ができていた。
「なんでよりによって……! これシンタローさんが屈んだ拍子にパーンって裂けるやつじゃん?!」
コントみたいなことになってしまうと焦りながら、レオは考える。
「いや、でもさぁ、私みたいな小娘の力で裂けたって多分不可抗力だよね? 正直に悔い改めればいいやつだよね?」
うんうんと頭を悩ませながらも、レオは裂け目ができてるズボンをそっと物干しにかける。
「うんうん、そうだよね。正直に話して、ついでに縫い方を教えてもらおう。ちゃんと忘れずに正直に言えば大丈夫大丈夫。絶対に忘れない様にしなきゃ」
なんだか怪しいフラグをもう一本立てて、レオは洗濯物を終えたのだった。
「パプワくーん! チャッピー! 洗濯物終わったよー!」
名前を呼びながらパプワハウスへと戻ると、パプワたちの近くに金髪の男性がこちらに背を向けて立っていた。ミヤギの濃い金色とはまた違った色をしている。
「あれ、もしかしてまたガンマ団の……」
私の声に振り返ったのは、今まで見たこともない様な綺麗な人だった。一瞬女性と見間違える程の美貌だが、しっかりとした身体つきがそれを否定する。その美貌に圧倒されてレオは目を見開くが、何故かレオを見た男性も目を見開いている。
「レオ、コイツはシンタローのおじさんだゾ」
「ああ、シンタローさんのおじさんね。それはどーもどーも。……おじさんンンッ?!」
びっくりし過ぎて大声が出る。目の前の美しい男性とおじさんと言うワードが頭の中で結び付かなかった。レオの反応にくすくすと笑ってから、シンタローの叔父である金髪の男性は口を開く。
「シンタローの叔父のサービスだよ。君は……?」
「……え、ああ、私はレオっていいます。その、シンタローさんと一緒にこの家でお世話になってて……」
シンタローの親戚にしては、似ている要素が一つもないなぁと思いながらサービスを見るが、サービスもまたレオのことをじっと見ていた。その視線に違和感を感じたレオは首を傾げる。
「あの……?」
「君は……いや、ごめんね。君に似ている人を知っていたから、驚いてしまってね」
「私に、似てる人……?」
レオの心臓がどくりと音を立てる。それはレオにとって、初めてとなる記憶への手掛かりだった。他人の空似という可能性もあるが、それでも確認しておきたかった。
「あの、もしよければその話、聞かせてもらえない……ですか?」
「え……?」
どこか必死さを感じさせるレオの様子に、サービスは驚く。
「私、5歳以前の記憶がなくて、親も故郷もわからないんです。それが知りたくて育ったとこから出て、遭難してこの島に辿り着いたんだ。その、正直手掛かり皆無で、なにかとっかかりがあればいいなって!……です」
「なるほど、そういう事情があるのか。……ふふふ、無理して敬語を使わなくてもいいよ」
「あー……。えっと、じゃあ、お言葉に甘えて」
「僕の話で良ければ構わないよ。でも、僕自身がその君に似ている人を知っている訳ではなくて、僕の友人の大事な人だったみたいなんだ」
懐かしむ様に目を細めるサービスに、なんとなくレオは緊張してしまい、背筋が自然と伸びる。パプワとチャッピーも気になる様で、じっと話を聞く体勢になる。
「僕が見たのは君に似た人の絵なんだ」
「絵……ですか?」
「ああ。彼の大事な人で、その子が5歳の時にもう会えなくなってしまったそうで、写真すら残っていないらしくてね。記憶を頼りに描いたらしかったけど、よく描けていた」
「5歳……」
思わぬ共通点に目を見開く。
「でも、5歳の時の絵を見たにしては、サービスさんかなり驚いていたよね?」
「もちろん、面影が残ってたことも確かだが……」
やや言いづらそうな表情で続ける。
「これから歳を取ったらどうなるのかの想像図が20歳分まであってね。それとそっくりだったんだ。しかも、いろんなオフショットの様な絵もたくさんあって……」
「ねぇ、待って。急に怖い話になった」
やや切ない話な感じだったのに、急に執念を感じさせてきてレオの腕に鳥肌がたった。
「それと、気を落とさないで欲しいんだけど、僕の友人はもう亡くなっているんだ。……もう25年になる」
「25年……」
「彼自身も身寄りがなくて、最終的にその絵は僕が引き取ったんだけど、その子の名前すらわからないんだ。彼もその話はしたくない様だったから、深く聞いたことはないんだ」
25年前だと5歳という共通点はあれども、どう頑張っても計算が合わない。てか、サービスさんって一体何歳なのという疑問が頭を駆け巡ったが、一旦置いておく。
でも、25年前以上前ってことは、もしも他人の空似ではないとすると、母親とかその辺りの世代の親類ってことになるのだろうか。いや、若くして産んでいたら、祖母世代とかもありえたり……?
レオが珍しく真面目な顔で考え込んでいると、落ち込んでいると勘違いしたサービスが眉を下げて口を開く。
「ごめんね、あまり参考にならない話で」
「えっ……いやいや! 元々が手掛かりゼロだったんで、むしろ大きな一歩だよ! ありがとう、サービスさん!」
嬉しそうに笑いながら礼を言うレオに、サービスは少し固まる。そして、ゆっくりと手をレオの頬へと伸ばす。
「やはり……」
優しく頬を撫でられる感覚にレオが驚いていると、喧しい足音が聞こえてきて、サービスの言葉が中断される。
「シンタローさんのご親族が来訪したんですってぇぇ?!」
「挨拶しにきたわァァァ!!」
やたら気合の入ったイトウとタンノを前にして、レオとパプワは顔を見合わせる。
「……なんか収集つかなくなってきたね」
「そうだナ」
乱入者によって、レオの過去のへの手掛かりの話は一時中断されることとなった。