「おはようブタども! 昨夜無事帰還したぞ!」
「かげたーん」
不思議な世界観の服装に、怪しげな仮面。
後ろには猫耳メイドに首輪をつけた姿のカルタが、サーターアンダギーをもくもくと食べている。
さ、騒がしい。そういえばこんなんだったな。
「…誰!!?」
「2号室の住人よ。カルタのパートナーの」
「放浪癖があるから、あんまり居ないけどね〜。前に話した幼なじみの一人だよ、ね〜」
「久しぶりだな、M奴隷よ」
「それで成りたってるんだ」
蜻蛉は決して悪人ではないのだが。ド変態である。
昔兄様に、蜻蛉と遊んではいけませんと言われたことを思い出す。無視して遊んでいたけれど。
今になって思う。この男は情操教育上よろしくない。
「お…お…おまえ……」
「おお! 貴様も居たか、久しいな家畜よ」
「ぎゃああああ!!」
「ふははは、良い声で啼くではないか!」
「やめなさい」
べし、と背中をたたく。本当なら頭をシバきたいけど、生憎届かないので。
くるりと振り返った蜻蛉が、私を見て笑った。
「はは、久しいな我が奴隷よ」
「私の事奴隷なんて言うの貴方くらいよ」
「全員揃うのは久しぶりだね〜。ね、そーたん」
「はい。お帰りなさいませ、蜻蛉さま。お会いできて嬉しく思います」
「昨夜はなかなか楽しかったぞ。しばらく宜しく願おう」
わー、険悪な空気。
双熾は蜻蛉の元使用人だった。だけど仲がいいわけじゃない。
「そうだ、貴様達に土産があるのだ」
「どこ行ってたの?」
「沖縄だ! 鞭だ!」
「沖縄無関係だ」
久しぶりだ、この感じ。
蜻蛉はいつでもゴーイングマイウェイなのだ。展開が全部持って行かれる。
「貴様にはこれをやろう」
「アイマスク?」
「向こう側が透けないよう頑丈に作ってある。これで愉しむといい!」
「何を愉しむって言うのよ」
まあ、見た目だけなら普通のアイマスクだ。蜻蛉にもらったのだから想定されている使用用途はきっと本来のものと違うけど。
もらうだけもらっておこう。寝るときに便利だし。
「貴様は初対面だな、ではお近づきのしるしにボールギャグを…」
「近寄ったら凍らすわよ。男でしかも変態で、名前も名乗らない奴とはお近付きになれないわ」
「一理あるな、メス豚よ!」
この二人は相性が悪そうだな。変態同士でも食指が合わないと気は合わないだろう。
ていうか野ばらは基本男嫌いだし。多分近寄ったら本当に凍らせられる。
「私の名は青鬼院蜻蛉。2号室の住人であり、カルタのご主人様だ! 加えて双熾の元主人であり、白鬼院凜々蝶の婚約者だ」
「婚約者…!?」
蜻蛉と婚約。大変な目に遭いそうだ。
「そーいやそんなん居たなぁ。毎日手紙書いてたろ? 結構気に入ってたんじゃねーの?」
「違う! くだらないな、家同士が勝手に進めた話だし、拘束力はない。現に子供の頃依頼会っていないし、ほとんど消えた話だ」
「でも手紙来なくなったときは落ちこんでたじゃん」
「ふん、字の練習ができなくなった事を憂いていたんだ」
案外気は合っていた……のか?
昔のことなら私もある程度覚えているけど。手紙……蜻蛉、書いていたっけ?
手紙なら蜻蛉より、むしろ……。
「私は貴様を気に入っているぞ。従順すぎるより反抗的な方が調教しがいがある」
「調教って言うのやめなさいね」
「私はまたすぐにここを出るつもりだ。どうだ貴様も来ないか?」
「「はい」と言うとでも?」
「ふふ、まあ答えを急ぐな。今日は土曜だ、帰ったらゆっくり話そう許嫁殿。もうひとつ、大事な話があるのだ」
蜻蛉のその言葉を聞いて、双熾が妙に警戒する目つきをした。
凜々蝶は、多分気付いていない。
どうやら双熾には、まだ凜々蝶に秘密にしていることがあるらしい。
もめ事にならないといいけど。
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Wisteria
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