御狐神双熾。
彼の人生のことを、私は少ししか知らない。
初めて会ったのは、家が主催したパーティーで。普段外に出ないという双熾も、龍泉の家が要求したことで無理矢理パーティーに出させられたのだ。
同じ先祖返り同士、仲良くしておいで。そう親に告げられて初めて会った双熾は、無感動で無機質な瞳をしていた。
それから度々、遊ぶようになって。遊ぶと言っても私の遊びに付き添わせていただけだ。
そのあと少しだけ、姿が見えなくなって。
もう一度出会ったのは、蜻蛉の家に遊びに行ったときだった。








「どうした双熾、言ってやらんのか?」
「何の事だ」
「あの手紙の事だ、許嫁殿。あの手紙は、私が書いていたのではない」


手紙。そうか、やはり。
昔双熾が書いていた手紙は、蜻蛉のふりをした代筆だったのだ。


「知っているが。」


凜々蝶の言葉に、双熾が目を見開く。


「君があんな手紙を書くか。僕の目が節穴だとでも? あれは君じゃない」

「僕が待っていたあの人は、君じゃない」


気付いて、いたのか。

双熾が凜々蝶を見る。救われた迷い子のようで。

さっさとこの場から逃げれば良かった。拷問を受けている気分だ。
ぎゅ、と唇をかみしめる。


「なんだ、つまらんな」


蜻蛉が立ち上がり、そして何故か凜々蝶をエレベーターに追い込んだ。
そのままドアが閉まり、エレベーターは下降していく。


「凜々蝶さま…!」


慌てた双熾が、階段で降りていくのを見送って。
私はため息をついた。

まったく。こんな事なら部屋で二度寝をしておけば良かった。のろけに付き合わされた気分だ。
これで双熾のわだかまりもなくなっただろう。二人の仲はより深くなる。
なんでこう、私はタイミングが悪いかな。
判っていたって、気分は自在に出来るものじゃない。好きという感情を消すのには時間がかかる。
お風呂にでも入ろう。どうせなら露天風呂の方に。
チリチリ焦げたような気持ちを持て余すのは、もう沢山だ。








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