「タイムカプセル?」
「そ!」
その誘いは唐突だった。
タイムカプセルって、手紙を書いて埋めるあれのことだろうか。
「来世の自分宛に手紙を書くんだ。華たんもどう〜?」
「来世の自分……? ……そうね、面白いかもね」
「さっすが〜、そう来なくっちゃ。じゃ、庭で待ってるね」
「ええ」
手を振って、残夏を見送る。
ドアを閉めて、机に向かって。レターセットは、確か持っていたはず。
ペンを持って、ふと思った。何を書けば良いんだろう。
「来世の、自分……ね」
先祖返りは大体同じ性質を持って生まれ変わる。よって、来世の私もきっと今とそう変わらないはずだ。
とはいえ自分宛に手紙なんて書いたことがない。どうしよう、と考えて。
警告を、書くことにした。
もしまた来世の私が、望みのない恋なんてしたときに、すぐに諦められるように。
「告白は迅速に。さっさと告白してさっさと振られた方が良い。諦めは肝心」
……なんとなく希望がない。この間のことが尾を引いているみたいだ。
ネガティブなんて私らしくないな。でも今はそれしか考えられない。
あと、あとは……。そうだな。
「もし来世で、今の双熾の墓を見つけたら。お墓参りをするように」
来世で双熾のことを覚えているか判らない。そもそも私が生まれ変わった頃に双熾が死んでいるかなんて判らない。
でも双熾の方が年上だし、可能性はあるし。
きっと双熾は、幸せな家庭を築くのだろうから。未練がましくたって、お墓参りくらいいいだろう。
それから、……それから。
「よし」
書き終わった。読み返してみて、誤字脱字がないか確認する。
うん、大丈夫だ。これを持っていこう。
どうせ読むのは私なのだから、何を書いたって私が恥ずかしいだけだ。他の人に見られるわけでもない。
庭に持っていくと、もうメンバーは勢揃いしていた。
「おっす。遅かったな」
「あら、お待たせしてしまったかしら。ごめんなさいね」
「いいのよ華火ちゃん」
「華たん何書いたの?」
「……警告、かしらね」
「は?」
「………」
ふと見ると、横に小さな影があった。
この子は確か、コックの河住さんのお子さんの小太郎くんだ。
ランドセルを机代わりにして、迷った顔をしている。
「小太郎。おまえも来てたのかい…?」
「うん……その係船柱どうしたの…」
河住さんもいる。この二人が揃っているのを見るのは久しぶりだ。
「おまえもタイムカプセルに残したい言葉があるって…? センチメンタルだね」
「………。来世のお父さんに手紙を書いてるんだ。でも何て書けばいいのか分からない…」
「来世の俺は本当に俺か? 見ず知らずのおっさんに手紙は書けねえよそりゃ…」
「え…」
「人は出会いで出来ているのさ。色んな物や人、感情とのな。母さんやおまえと出会ってない俺は俺とは呼べないのさ…。ふっ、ロマンチックすぎるか…?」
「そっか…。僕のお父さんはお父さんだけだね…」
何事かあったらしいが、今解決したようだ。
小太郎くんの晴れ晴れとした顔を見てそう思う。
「フフフ〜。めでたしめでたしッ、かな〜」
「なんだその満足気な笑みは…。また何か知ってたな?」
なんだ、残夏のお節介か。
タイムカプセルなんて言うから何かと思ったけど。そういうこと。
「へぇ〜。おまえって優しいのか!」
ストレートだな。さすが連勝。
「何考えてんのかと思って最初焦ったわ」
「ん〜〜〜? さぁてど〜かな〜」
「ちょっと! アンタ達何無断で庭に穴掘ってんのよ…」
あ、童辺さんだ。怒られてる。
まあ穴を掘ったのは私じゃないので勘弁してもらおう。
掘った物は仕方がないと言うことで、見逃してもらう。
「さて、これで全部かな〜?」
「まて、御狐神くんが…」
「ん? 凜々蝶、この手紙間違いじゃね?」
「?」
「御狐神サンに渡すんじゃねーの?」
凜々蝶が埋めた手紙は、「御狐神君へ」と宛名が記されてある。
どうやら手紙を取り違えたらしい。
まあそんな心配しなくても、双熾に連絡して持ってきてもらえば……。
「きゃーーーーー!!」
「!?」
「な、なんだ!?」
「おい、どうした…」
何かとんでもないことを書いたのだろうか。分からないけど、凜々蝶がここまで取り乱すなんて珍しい。
「手紙ならまだ読んでないかもしんないじゃん。とりあえず電話すれば…」
「!」
凜々蝶が目にもとまらぬ早さで、携帯を操作する。
ワンコールで電話が取られる音がした。
『はい…』
「手紙を読むな!!」
珍しく声を張ってそう叫んだ凜々蝶。だけど。
『…読みました』
そう聞こえて。
凜々蝶は、黙って携帯を閉じた。
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