「……ん、」


目を開ける。玄関は暗くなっていて、ふと窓の外を見ると真っ暗だった。
どうやら泣きながら眠ってしまったらしい。赤子か。
靴を脱いで、部屋に上がって。もう今日は風呂に入る元気がない。
さっさとシャワーだけ浴びて寝よう。顔も随分酷いことになっていそうだ。

そう思っていたのに。

ピンポン、とベルが鳴る。来訪者だ。
誰だろう。こんな時間に。
ドアの向こうに、声をかけた。


「……ごめんなさい、今はちょっと出られないの。後にしてくれる?」
「華火さま」
「!」


双熾だ。間違えるはずもない。
何で来たんだろう。まさか凜々蝶との関係を報告に来たんじゃないだろうな。
さすがにまだ傷が癒えていない。双熾の前で泣き出すのは避けたい。


「……双熾。後にして」
「華火さま、どうされたのですか」
「は、」
「声に覇気がありません。……ここを、開けて下さいませんか」


思わず一歩、後ろに下がった。
ドアを、開ける?
いや、いやだ。そんなの、絶対耐えきれない。


「……聞こえなかった? 後にしてって言ったのよ」
「……開けて下さるまで、お待ちしております」
「……たとえ何分待ったって、開ける気はないんだけれど」
「それならば何時間でも、何日でも。華火さまが開けて下さるまで、待っております」
「な、……っ、」


双熾は本気だ。声からして分かる。
きっと本当に待ち続けるのだろう。私がここを開けるまで。

……そんなの、卑怯だ。


「……」
「! 華火さま」
「手短に、済ませてちょうだい」


しぶしぶドアを開ける。
双熾はほっとしたように、笑った。










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Wisteria
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