それから三ヶ月が経った。
一学期が終わり、夏休みも終わり。
三年生の私は何度か模試を受け、志望大学の志望している学部に対し、これなら大丈夫だろうと教師からのお墨付きをもらった。
ちなみに連勝はようやく進路について考え始めたらしい。遅い。
三ヶ月の間、蜻蛉は何度か帰ってきた。
「ただいま帰ったぞ肉便器ども!!」
「どこ行ってたの?」
「北海道へ行ってきた! さあ土産だ! 貴様には三角木馬、貴様にはアイアンメイデン、貴様にはムチだ!」
「北海道関係ないじゃん」
夏休み前にもまた帰ってきた。
「ただいま帰ったぞM奴隷ども!」
「今度はどこに行ってたの?」
「四国へ行ってきた! さあ土産だ! 貴様には荒縄、貴様には浣腸器、貴様にはムチだ!」
「何でボクいつもムチなの」
夏休みはみんなで海に行った。
「華火さま、差し支えなければ日焼け止めをお塗り致しましょうか」
「ええ、お願い」
「……ふふ。華火さまのお体はお綺麗ですね」
「……やっぱり返して。自分で塗るわ」
「華火さまのお手を煩わせるわけには……」
「身の危険を感じるのよ」
夏休み前には文化祭もあった。
卍里のクラスは逆野球拳、らしい。私も残夏達に誘われて見に行った。
教室の前で人寄せをしていた卍里は、何故か女の子の格好をしていた。
「女装キター!」
「ぎゃー!!」
「その姿で客引きか? Mすぎるな!! 悦いぞ悦いぞ!」
「流行の「男の娘」ってやつー?」
「たいへんよくお似合いですよ」
「うるさーい!!」
「残夏、男の子って何?」
「華たん漢字ちがーう」
よく分からないけど、卍里の女装は意外と似合っていた。
「せっかくドMが痴態を晒しているのだ、これは動画に収めてやらんとな!」
「だよね〜」
「可愛らしいですよ渡狸さん」
「ぎゃー!! ヘンタイ!!」
「やめなさいよ、嫌がってるじゃない」
「! 華火……!」
「卍里も。こんなところでそんな言葉大声で叫ばないの」
「俺被害者!!」
可愛いとは思うけど。泣くほど嫌がってるならほっといたらいいのに。
卍里も騒ぐから、余計にいじめっ子達を刺激するのだ。まったく。
「そういえば華たんのクラスは?」
「うちは焼きそばの屋台してるわ。今は連勝が店番してるはずよ」
「じゃあ逆野球拳しようよ」
「じゃあの意味が分からないけど、いいわよ。ていうか逆野球拳って何?」
よく分からなかったので、ルールを説明してもらった。
通常の野球拳はじゃんけんで負けた方が脱いでいく。だけど逆なので、脱ぐのではなく指定された衣装を着なくてはならない。
……ということは、つまり。
もしうまくやれば、双熾に狙った衣装を着せられると言うことだ。
「……双熾、勝負しましょうか」
「華火さまのお望みのままに」
にっこり笑った私と、双熾。
結果は。
「じゃんけん、ぽん!」
「っ……今の絶対遅出し!」
「そう見えましたか……?」
「こら! 審判に色目を使わない!」
何故か双熾は、じゃんけんがめちゃくちゃに強かった。いや絶対遅出しだ。
指定されたのはやけに丈の短いメイド服やナース、そしてバニー。
……バニー?
「……いや、生徒会長としてこれは、さすがに……風紀違反というか」
「華火さまはルールを違えたりはなさらないと、信じております」
「……」
着るのは別に良い。着るだけなら。が。
これを双熾や、他の生徒の前で見せるのか。この露出の多い格好を?
「……双熾がいいなら、いいわよ。着てやろうじゃない」
「……」
「でも貴方、恋人の風紀の乱れた姿を公に晒す趣味があるなんて意外ね? あるっていうなら、着てもいいわ」
ど、どうだ。
笑顔を保ったまま、双熾をのぞき見る。彼は少し思案したのち、にこりと笑った。
「では、二人だけの時にいたしましょう。それならよろしいですね?」
「……まあ、それなら別に……」
……ん? 何だかいいように誘導された気がする。気のせいかな。
にこりと笑った双熾の顔は、まるでこうなるのが分かっていたかのようで。
「……双熾、まさかこれ分かってて勝負に乗ったんじゃないでしょうね」
「まさか。ただ僕は、華火さまの違う姿も見てみたいと思っただけでして」
「……そう。ならいいわ」
「華たん丸め込まれてるよそれ」
バニー服なんて私は持っていないし、この衣装を買い取りもできない。
ここさえ乗り切れば後は勝ち。と思っていたのに。
双熾が何故かサイズぴったりのバニー服を隠し持っていたことは、今は知らない。
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Wisteria
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