「……それで結局、バニー服を着たと」
「そうよ。計算外だったけど、まあ意外と恥ずかしくないものね」
「そうか……」
「本当なら双熾に学生服を着せたかったのだけど」
「学生服?」
夏の終わり。
凜々蝶とラウンジで女子会をしている最中、話の途中でぽつりとつぶやくと、凜々蝶は首をかしげた。
「学生服って……学ランのことか?」
「そうよ。ブレザーでもいいけれど」
「何故そんなものを……」
「……まあ、学生服を着ていたら学生に見えるでしょ」
「……?」
「同い年気分を味わってみたかったの」
「それは……」
なるほど、と凜々蝶は頷いて。
くるりと振り返り、双熾の方を見た。
「いいのか? 御狐神くんが聞いているが」
「構わないわ」
「華火さまがお望みなら、いくらでも」
「……言ったわね?」
なら今度、連勝に学ランを貸してもらおう。
双熾の学生服姿などろくに見たことがない。楽しみだ。
ラウンジに居るのは私と凜々蝶、そして双熾の三人だ。
凜々蝶が居るんだから、そのSSの双熾がいるのも当然のこと。
「……というか、君はいいのか、僕がいて」
「? 変なこと聞くわね、なんで?」
「その、僕は女だ」
「知っているわ」
「悋気を起こしたりはしないのか?」
悋気。ふむ。
私はぱちくりと瞬きをした。
確かに当初は二人が恋仲だと思っていたから、悋気もあったけど。今となっては、それはない。
だって。
「……双熾の愛が、重苦しいほど伝わるもの」
「重苦しい?」
「この間、双熾の部屋に行ったの。そしたら写真だらけの部屋があって」
「写真……?」
「それ、全部私の隠し撮りだったのよ」
「は!?」
あら珍しい。大声を上げる凜々蝶なんて。
彼女は真っ青な顔で、私と双熾を交互に見ている。
双熾の入れた紅茶を飲んでいれば、「龍泉さん」と名を呼ばれた。
「……警察に行った方が良いのではないか?」
「どうして?」
「か、隠し撮りされていることに何も思わないのか? 写真だらけの部屋と言うことにも……!」
「そりゃあ、私だって嫌よ」
「そ、そうだろう……!」
「隠し撮りなんて目線合ってないし可愛くないわ。どうせならちゃんと撮ってほしいわよねえ」
「そうじゃないだろう!」
別に写真を撮られるのは構わない。でもどうせなら可愛く撮ってほしい。
撮ると言われたら完璧にお洒落をしてバッチリ決めるのに。もう。
「申し訳ありません。華火さまのお写真を欲するあまり、つい……」
「だからって隠し撮りはやめてよね」
「隠し撮りでも華火さまのお美しさは健在でございますよ」
「……そ? ならいいわ」
「良くないだろう! ぼ、僕がおかしいのか……?」
凜々蝶が頭を抱えて机に伏せる。
私は可愛くなく撮られるのが嫌なので、双熾が可愛いと思って写真を撮っているなら別に構わないのだ。
「恋人の写真を持つくらい普通でしょう。私も双熾の写真を持っているわよ」
「え?」
「一緒に出かけたときに撮ったり、後は……昔撮ったデータを携帯に転送したりね。見る?」
「あ、ああ……」
携帯の中には、昔の写真も今の写真もある。
昔は双熾をメインに撮っているわけじゃなかったから、目線が合っていない物もあるけれど。
携帯を操作して凜々蝶に見せれば、彼女は目を見開いた。
「……!!」
「可愛いでしょ」
「……ふ、ふん。まあ可愛いといえなくもないな」
「久しぶりに聞いたわ貴方のそれ」
「あ、いや……」
「分かってる。褒めてくれたんでしょ」
「……ん」
凜々蝶は可愛い。まるで妹分のようだ。
妖館を家族と例えるなら、野ばらはお姉さんみたいだし、カルタは妹のよう。
連勝や残夏や蜻蛉は、また違うところにいるのだが。
「凜々蝶は私にとっても大事な人よ。だから双熾には、凜々蝶のことを何に変えても護ってもらわなくちゃね」
「……君よりもか?」
「当然。凜々蝶より私を優先するなんてSS失格よ。私は仕事を真面目にやる人が好きなの」
「……君は変わってるな」
「そんなことないわ」
双熾が私の事を好きなのはもう十分分かっているし、そこに今更疑いなんてない。
凜々蝶と双熾だけじゃない。野ばらは連勝を、カルタは蜻蛉を、残夏は卍里を護ってほしいと思っている。
もちろん、私が全員護るつもりではいるけれど。
何があるか、分からないから。
「双熾なら、私に嫌われる真似はしないでしょう?」
「……もちろんでございます」
にこ、と笑いかければ、双熾は丁寧に頭を下げる。
何か含みがあった気もするが……まあ、追求しないでおく。
「……だが君たちは、それにしても、あまり一緒に居ないな」
「凜々蝶、私を誰だと思っているの?」
「前にも聞いたなその質問。……龍泉華火さんだ」
「違うわ」
「は?」
「受験生よ」
「ああ……」
「志望校はこのままだと余裕で通るわ。かといって勉強してなければ可能性はどんどん低くなっていく。今、ここが天王山なのよ!」
ぐっと手を握りしめて力説する。
要するに、勉強する時間も必要なので双熾と一緒に居てばかりではいけないということだ。
「君は真面目だな」
「というか、龍泉の者が浪人なんてする訳にはいかないのよ。国内最高峰を目指すんならともかく」
「合格したらここを出るのか?」
「いえ、SSは続けるし、ここにも住むわ。私、ここが好きなのよ」
メンバーは変わっていくかも知れない。
それでも妖館の空気が好きだ。変わり者であっても迎えてくれる雰囲気が好きだ。
「人生これからですもの。楽しまなくっちゃね」
「ふん。……そうだな」
「ふふ」
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Wisteria
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