「どうぞ、上がってちょうだい」
「失礼致します」
11月。
気温も低くなり、町ゆく人も足早に過ぎ去っていくこの季節。
私は部屋に双熾を招き入れ、一息ついていた。
「華火さま、お勉強の方は如何ですか」
「万事順調、滞りないわ。首席入学も夢じゃないわね」
「流石です。華火さまは努力家ですね」
「ふふん」
ハーブティーを入れる。今日はジンジャーティーだ。
寒くなってきたから、風邪を引かないように。ショウガは体を温める。
「今日は凜々蝶は?」
「お部屋で一日過ごされるそうです。何かあればお呼び下さいと申し上げてきました」
「そう。なら平気ね」
「はい。「君もたまには恋人と水入らずで過ごせ」とのご命令でして」
「ありがたいことだわ」
気遣ってもらっているのは解っている。もしかしたら今日も、私のために部屋で過ごそうとしてくれたのかもしれない。後でお礼をしておかなきゃ。
向かい合ってローテーブルに着く。ハーブティーを出すと、双熾は一口口に含んだ。そしてほっと息をつく。
「美味しいです」
「そう? 良かったわ」
「ジンジャーですね。初めて華火さまに入れて頂いた時を思いだします」
「初めて、って……随分昔の話をするのね」
「今でも覚えております。華火さまと初めてお会いした、龍泉財閥が開いたパーティーでのことを」
「懐かしいわね」
あの頃私は蝶よ花よともてはやされて育てられた、いわゆるお嬢様で。
同じ立場のはずの双熾が、暗い顔をしているのが不思議で。
「あれから、貴方を散々連れ回したものだわ」
「ふふ。貴重な経験でした」
「色んなとこに行ったわね。遊園地とか映画館とか。もうあんまり鮮明な記憶じゃないけれど」
「僕は、華火さまの一言一句全て覚えておりますよ」
「……やっぱり、不思議だわ」
「不思議、とは?」
「私、貴方がどうして私を好いてくれたのか、全然わかんないのよね」
双熾との関わりは、小さな頃に彼を連れ回し、少し大きくなって蜻蛉や残夏、卍里達と日々を過ごし。
そして妖館で再会した。それくらいしかないのに。
「連勝にも私に連れ回されるなんて可愛そうにって言われたのに」
「……そう、ですか」
「そ。失礼しちゃうわ。でもその通りだとも思ったの。散々わがまま言ったもの」
わがまま放題の典型的なお嬢様。そう陰口をたたかれていたのも知っている。
なのに、双熾は私の何が良かったのだろう。
「顔が良いとか家柄が良いとか、そういうのは散々言われてきたから知ってるけど。でもそういうので貴方が惚れるなんて思わないのよね」
「……長い話になりますが、それでもよろしければ」
「! 聞かせてくれるの?」
「華火さまがお望みなら」
「聞きたいわ、是非」
思わず目を見開き、顔を近づけてそういえば、双熾はゆるりと笑って。
そして、一呼吸置いて話し始めた。
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