御狐神双熾が龍泉華火に初めて出会ったのは、十年以上昔の、とある秋の日。
まだ双熾が、御狐神から逃げることを夢物語と考えていた、幼い頃。
龍泉財閥が開いたパーティーに、是非と誘われて断れなかった大人達に連れられてきた、そんな日だった。


「おお、御狐神さん。お久しぶりですな」
「ご無沙汰しております、龍泉さま」
「それで、そちらが?」
「はい、当家の先祖返り、御狐神双熾でございます」


双熾を連れている御狐神家の主人が、珍しく下手に出てペコペコしていたのを覚えている。
権力に媚びているのだ、と一目で分かった。
龍泉という家の主人は、年をとっているが快活で、そして食えない男だと思った。


「うちの孫も紹介しましょう。そちらと同じ、先祖返りです。華火!」
「はあい、おじいさま」
「ご挨拶しなさい、御狐神さんだ」
「はい」


ふわ、と可愛らしくデザインされたドレスの裾をなびかせて現れたのは。
双熾より5歳年下の、愛らしい顔立ちをした少女だった。


「はじめまして。私、龍泉華火ともうします。龍神の先祖返りです」


まだ舌っ足らずさが残る口調で、彼女はそう言った。
恵まれた環境で育ってきたのだろうな。華火に対する双熾の第一印象は、それだった。
きらめく瞳、つややかな髪、彼女のためにデザインされたようにぴったりとあつらえられたドレス。
何よりその顔からあふれ出る自信が、双熾にとっては他の世界の住人のようだった。


「双熾、ご挨拶を」
「御狐神双熾です。九尾の妖狐の先祖返りです。宜しくお願い致します、龍泉さま」
「賢そうな子だね」


このパーティーのために教え込まれた、他人に好かれる笑顔。
それを意識して浮かべれば、龍泉の主人は双熾を気に入ったようだった。


「華火、彼も妖怪の先祖返りだ。色々お話をしてきなさい」
「はい」
「! 龍泉さま、双熾はまだ龍泉家に見合う態度では……」
「なに、子供同士だ。慇懃すぎるより、そちらの方が気楽でしょう。うちは構いませんよ」
「っ……はい」


龍泉と御狐神の力関係が、一瞬で解った。
御狐神の家は双熾を軟禁するほど、先祖返りに固執している。自分の手の届かないところへ行ってほしくないのだろうと思った。
けれど龍泉の言うことには逆らえないようで、主人は渋々引き下がる。


「じゃあ遊びましょ、御狐神さん」
「はい」


適当にあしらえばいい。
そのときは、そう思っていた。







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