華火と再会した、日曜の朝。
御狐神家に迎えに来た彼女は挨拶もそこそこに、車に乗るよう案内をした。
断ることなど当然出来ない。不安といらだちをにじませる御狐神の主人を置いて、車は走る。
着いたのは、大きな商業施設だった。


「ちょうど見たい映画があるの。付き合って」
「はい」


華火について行きながら、双熾は困惑していた。
映画を見る。初めての体験だ。何をすれば良いのだろう。
何をすれば、龍泉の娘の機嫌を損ねずにすむのだろう。


「御狐神さん?」
「! 失礼致しました。いかがされましたか」
「……ううん。これ見ましょ」


これ、と示されたのはアニメの映画だった。見たこともない。タイトルすら聞いたことはない。
チケットを渡されて入場口を通る。劇場に入ると、思っていたより広かった。


「こっちよ」
「はい」


華火の隣の席に座る。少しすると映画が始まった。
話は奇妙なストーリーだった。
困りごとを抱えた主人公の元にやってきた魔法使い。主人公の頼みを聞き入れて何でもしてくれる。
けれどそれが行き過ぎて、逆に主人公は窮地に追い詰められる。
正直あまり興味はなかった。暇を潰すつもりでぼんやり眺めていれば、ふと隣の華火に目が行った。
彼女は真剣に映画を見ていた。くすくすと笑ったり、びくっと肩をふるわせて驚いたり、む、と眉をしかめたり。
そして最後、静かなBGMが流れるシーンで、ほろほろと泣いていた。
何が琴線に触れたのか、そのときの双熾はわからなかった。
ただ、ぼんやりと。静かに泣く華火の姿を、綺麗だと思った。

やがて映画が終わり、外に出る。華火がカフェに行きたいと言い出したので、適当な喫茶店に入った。


「面白かったわね!」
「そうですね」
「私ラストシーン好きだったわ。まさか魔法使いが死んじゃうなんて思わなかった!」
「はい、僕もです」


話を合わせる方法は知っていた。
相手の言っていることを否定せず、さもそう思いましたという顔で頷いておけば良い。
簡単だと思った。けれど。


「御狐神さんは、どこが良かった?」


そう聞かれたとき、返答に詰まった。
どこが、よかったか。
正解がわからなかった。だから相手に合わせることを選んだ。


「僕もラストが良いと思いました」
「ふうん。どの当たりが?」
「魔法使いが、亡くなるところが」


先ほど華火が言ったことそのままだった。
通せると思った。この幼い少女相手なら、喜ばせられると。
なのに。


「……そう」


華火の顔に、双熾は思わず固まった。
彼女は笑顔を浮かべなかった。
先ほどまでのご機嫌と打って変わって、すっと表情を消し、紅茶に口をつけていた。
機嫌を損ねたのは、明白だった。

龍泉の機嫌を損ねれば、御狐神家からの待遇がより悪くなるだろう事も想像がついた。
それでも、どうすれば良いのかわからなかった。


「御狐神さん」
「はい」
「今度、遊園地に行きましょ」
「…………え?」


もういらない、と言われると思った。
機嫌を損ねた沙汰は追って告げると言われると、思っていた。

思わず目を見開いた双熾の前で、華火はため息をついた。


「おじいさまがね、遊園地の優待チケットをもらってきたの。でも生憎、お兄様や友人の都合がつかなくて」
「……ええと、」
「つきあってちょうだい」


華火の考えていることが、わからなかった。
どうして見限られなかったのだろう。御狐神家の者だから使えると思った? それとも、自分に何か気に入られる要素があったのか。
容姿が良いことは自覚していた。それでもそれが理由ではないだろう事はわかった。
華火はこちらを見て頬を染めたり、すり寄ってきたり、そういうことは一切しなかったから。


「また来週、日曜日。迎えに行くわ」
「……龍泉、さま」
「なあに? 都合が悪い?」
「……いえ。謹んで、お受け致します」


頭を下げれば、華火は頷くだけだった。
体の良い人形が手に入ったとでも思っているんだろうか。
だとすればそのうち飽きるだろうと、思った。
……そのときが来るのが、少しだけ怖かった。









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