「残夏の様子がおかしい?」
「ああ……」
そう言ってきたのは、卍里だった。
「気のせいかもしれねえんだけど……なんか貧血気味みたいでよ。レバーとか食べさせた方がいいんじゃねえかな」
「……そう。ありがとう卍里、優しい子ね」
「こ、子供扱いすんな!」
「あら……」
よしよしと頭をなでれば、卍里はぷいっとそっぽを向いて去って行った。
ついつい卍里をかわいがってしまう。あちらとしてはそんなつもりはないのだろうけど、卍里はいい子だから。
ま、それはそれとして。
「……貧血、ね」
ピンポン、とベルを押す。
少し待っていれば、ドアが開いた。
「華たんいらっしゃ〜い」
「ええ、お邪魔するわ、残夏」
手土産の袋を渡し、私は彼の部屋に入る。
残夏は私が来ることがわかっていたかのように、用意されていたお茶を出してくれた。
「それで? 何でボクの部屋に来たのかな?」
「わかってるくせに。……卍里、心配してたわよ」
「ケチャップって言ったんだけどな〜」
「ケチャップ?」
その話は知らない。
が、まあいい。
「百目の先祖返りは短命って話、ほんと?」
「ん〜。まあね。でも全部わかって生まれ変わるし、実際は一番長生きとも言えるよね〜」
「言えないわよ。……体、辛いの?」
「そんなことないよ。SSが心配するほどじゃない」
……残夏とは付き合いが長いけれど、何でもわかるわけじゃない。
それでも、心配はするのだ。
私は妖館のSSである前に、残夏の友人なのだから。
「……貴方はいつもそうね。人のことは何でもわかってるみたいな顔して、自分のことは全部秘密だわ」
「秘密が多い方がロマンチックでしょ?」
「それは知らないけど……。……残夏、貴方には感謝してるのよ」
「感謝?」
「私が双熾と恋人になれたのは、貴方のおかげだもの」
完全に失恋したと思っていた私の所に双熾が来たのは、残夏に助言をもらったから。
彼は色んな物が見えている。それは幸せなことばかりではないだろうに。
残夏はその力を、人のために使ってくれるのだ。
「そーたんといえば、いいの? 華たん。ボクの部屋に一人で来るなんて」
「……? 何が?」
「ボクだって男だよ。そーたん、やきもち焼いちゃうんじゃない?」
「まさか。私が貴方に浮気するって、双熾がそんなこと考えるとでも思ってるの?」
「いやそーたん嫉妬深いでしょ絶対。え? コレほんとにボク大丈夫? 後からそーたんに闇討ちされたりしない?」
「妙なこと言うのね。しないわよ多分」
「ええ〜……もし殺されそうになったら華たん守ってね」
「? いいわよ」
じゃ、なかった。
話が逸れた。いや、そらされたのだ。
まったく残夏ったら、言葉の使い方が上手いんだから。
「病院には行った?」
「行かないよ〜。行っても意味ないしね」
「……」
「そんな顔しな〜い。大丈夫だよ、自分のことは自分が一番わかってるから」
「……それは、……そうね。そうかもしれないわ」
「でしょ?」
でも。だって、心配なのだ。
大切な友人だからわかる。残夏は私に隠し事をしている。
そしてそれは、私が暴けるものかはわからない。
彼は本当に、隠し事が多いんだから。
「……ねえ残夏、お願いがあるの」
「ん〜? なんだろ」
「何かあったら、私に……ううん、私じゃなくてもいいわ。卍里でも双熾でも蜻蛉でも、他の誰でもいいから……絶対、相談して」
「……相談?」
「私はもちろんだけど、妖館の皆だって貴方のことが大好きなのよ。ずっと隠し事されて急に居なくなる、なんてことしてほしくないの」
「……」
残夏が目を見開いた。何て顔してるんだろう。
でも私は知っている。残夏はそういう人だ。
優しい人だから、きっと自分の苦しさを隠してしまう。そして皆、手遅れになって気付くのだ。
そんなのあんまりだ。酷いじゃない。
「華たん情熱的〜! ボク照れちゃう」
「こら、誤魔化さないの」
「……ま、気持ちは受けとっておくよ。ありがとね」
「……」
気持ちは、か。
結局相談するとは、約束してくれないんだ。
「……もし貴方が一人で死にそうになったら、私泣くから」
「え?」
「ギャン泣きしてやるわ。龍泉の人間としての誇りなんかかなぐり捨てて。大の字になって手足バタバタさせてやるんだから」
「何ソレ脅し?」
「そうよ脅しよ。そうなったら双熾も龍泉の人間も黙ってないんだからね。覚悟しときなさいよ」
「怖〜」
けらけらと、残夏が笑う。
彼に少しでも、道が示せればいいと思う。
一人で抱える必要なんてない。さらけ出してほしいと思う。
それが伝えたかった。
それだけだ。
「ありがとね、華たん」
通じていれば、いいのだけれど。
→
back
Wisteria
ALICE+