世間一般で12月と言えば、師走だ。
そしてクリスマスでもあり、年の暮れでもある。
だけど私にとって、12月と言えば。
「……双熾の誕生日プレゼントが決まらないのよね」
「誕生日プレゼント?」
ぽつりと呟けば、残夏が首をかしげた。
休日のラウンジ。いるのは残夏に野ばら、反ノ塚、カルタに卍里だ。
というかタイミング的に、双熾がいない時を狙ったのだけれど。
「はっ、下らねえな」
「卍里だってカルタからプレゼントもらったら嬉しいでしょ。双熾だって私からプレゼントもらったら嬉しいはずよ」
「自信満々過ぎるんだけどあながち間違ってないのが華たんなんだよね〜」
「ミケ12月が誕生日だったのか〜。今まで何あげたんだ?」
「そうね……」
今まであげたもの、と言えば。
「ケーキでしょ、本、映画のDVD、漫画、音楽のCD、それから……」
「娯楽品多いな」
「双熾そういうのあんまり知らないんですって。だから私のおすすめをね」
「今回もそういうのじゃダメなの〜?」
「流石に今までと同じっていうのは……」
恋人にもなったんだし。言わないけど。
むむ、と悩む。SSもやっているし、財源的に何でも買えはするんだけど。
「そーたんのことだから、華たんがあげたものなら何でも喜ぶんじゃない?」
「それはそうだけど……ねえ野ばら、貴方は何をもらったら嬉しい?」
「私?」
「そう」
野ばらだから、センスのいいものを答えてくれそうだ。
そんな私の期待はあっけなく砕け散った。
「私は華火ちゃんがほしいわ」
「……? 意味がわからないわ。召使いになれってこと?」
「違う違う。私がプレゼント、ってことよ」
「……? 本気で意味がわからないわ」
「華たんなんだかんだでお嬢様だからそういう情報には疎いんだよね」
自分をプレゼント? 人身売買? でも野ばらがそんなこと勧めるはずもないし。
本気でわからない。首をかしげていれば、野ばらがどこからか服を取り出して、いい笑顔で言った。
「とりあえず華火ちゃん、コレに着替えてみましょうか」
「わかったわ」
「華火ー、お前時には人を疑った方がいいと思うぞ」
反ノ塚が何か言っていたが、わからないのでとりあえず聞かなかったことにする。
「……で、着てみたわけだけれど。何これ?」
「メニアアアッッッック!!!! いいわ華火ちゃん、最高よあなた!!」
渡されたのは着物に袴、ブーツ、そしてエプロン。甘味処の店員のような格好だ。
そしてそこに何故か獣の耳と九つに先の別れた尻尾。本気でわからない。何コレ。
「大正ロマン姿にエプロンを重ねることでかわいらしさかつポップな印象をプラス! そこに獣耳と尻尾がコスプレのようにマッチするわ!! ナイスメニアック!」
「全然わからない……」
「似合ってるじゃん」
「可愛い……」
「それはわかるわ」
確かに似合うだろう。なんせ私だもの。だけど。
これと双熾へのプレゼントと、どういう関係があるのか。
……双熾?
そういえば、彼は九尾の妖狐の生まれ変わりだ。
とすると、これは。
「ねえ野ばら、これってもしかして双熾のコスプレ?」
「そうよ! でも華火ちゃんの方が断然似合うわね!」
「……これと双熾へのプレゼントとどういう関係があるの?」
「そうそう、最後の仕上げがまだだったわ」
そう言うと、野ばらはどこからか真っ赤なリボンを取り出した。
そしてくるくると、私の体に巻いていく。何だと言うのだろう。
「できた!」
「……? 本当に、なあにこれ。意味がわからないわ」
「華火ちゃん、これ言って」
「? なに?」
がちゃ、と後ろで扉が開いた音がする。
それを気にとめず、私は渡された紙に書いてある文言を読んだ。
「プレゼントは、わたし……?」
「……華火さま」
「! 双熾……!」
声をかけられて気付いた。双熾がラウンジに入ってきている。いつの間に。
双熾の誕生日はまだ先だ。これじゃあネタバレになってしまう。
どうしよう、と視線をさまよわせると、残夏がぐっと親指を立てた。
いや、どういうこと。
「華火さま、これは一体どういうことでしょう」
「え!? い、いや……私もよくわかってないんだけど……」
「僕というものがありながら……」
「そ、双熾……? 怒ってる……?」
「いえ、そんなことは」
「怒ってるじゃない!!」
聞かなくてもわかる。
双熾のいつにもましたきらびやかな笑顔。そこから発せられる怒気。
彼は間違いなく、ガチギレしている。
「そ、双熾。落ち着いて。ね?」
「僕は落ち着いておりますよ、華火さま」
「ひ……」
じり、と一歩後退すれば、双熾が一歩距離を詰めてくる。
一歩、二歩。三歩後退したところで、私は脱兎のごとく逃げ出した。
が。
「どちらへ行かれるのですか?」
「わ!」
ぽすん、と何かにぶつかり、抱き留められる。
顔を上げるとそれは双熾だった。
「え!?」
目の前の双熾がにこり、と微笑む。後ろを振り返れば、そこにもう一人双熾がいて、彼もまたにこりと微笑んだ。
一瞬混乱するけれど、すぐ理解する。これは彼の能力だ。双熾は分身できるから。
でも。
「ず、ずるい!」
「何がですか?」
「分身して捕まえるなんてずるっこだわ!」
「華火さまが逃げようとなさるので、つい」
「ついじゃな、っきゃ!」
「失礼致します」
本体の方の双熾が、ひょい、といとも簡単に、私を抱き上げる。
リボンを巻かれているなんて動きにくい格好のせいで、じたばたと手足を動かしてみても軽い抵抗にしかならない。
「それでは皆様、僕らはこれで失礼致します」
「……おー」
「じゃあねーそーたん。……華たんグッドラック!」
「ちょっと! 誰か助けてくれないの!? 卍里!」
「そこで俺の名前を呼ぶな!!」
「薄情者……!」
伸ばした手が誰かに取られることはなく。
ラウンジの扉は無情に閉まった。
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