下着姿に、真っ白で糊のきいたシャツをまとう。
スカートをはいて、フリルタイを付けて。タイツをはいて。
後は髪を整えれば、私の準備は完璧だ。
ラウンジに降りて行けば、野ばらがいた。相変わらず早起きだ。
「あら華火ちゃん。久しぶりの制服ね、メニアックだわ!」
「もう見慣れたでしょ、制服なんて」
「何度見てもいいものはいいのよ」
「それより、凜々蝶はまだ降りてきてないの? 遅れちゃうわ」
「凜々蝶ちゃん? そうね、そろそろ…・」
かつ、かつ、と。靴音がした。
見上げた先、階段を降りてきていたのは、話をすればで凜々蝶だ。
「おはよう、凜々蝶」
「凜々蝶ちゃんの制服姿…メニアックッッ!!!」
「ふ、ふん。今日から学校だからな。おはようございます…」
「ピカピカの高校一年生だものね!! 沢山お友達できるといいわね。ところでニーソと太ももの間に指入れてみてもいい?」
「良くない」
「よしなさい野ばら、凜々蝶が引いてるわ」
野ばらは時々発想が変態だ。初めて会った頃は私も驚いたけど、もう慣れた。
ところで、双熾はいないのか。凜々蝶がいるなら双熾もいるべきだ。
「凜々蝶、双熾とは一緒じゃないの?」
「僕たちは別に四六時中一緒にいるわけでは……。彼に用事か?」
「いえ、用事というわけじゃ……」
「華火さま」
声に目を向ける。双熾がにこやかに微笑んでいた。
「僕はここに。凜々蝶さま、おはようございます」
「……おはようございます」
「あら双熾。体調に異常はない?」
「はい」
「そう。手の怪我は?」
「これくらいは大丈夫です。ご存じの通り、我々の体は普通より丈夫にできていますから」
「ならいいわ」
双熾の言うとおり、先祖返りの体は丈夫にできている。
とはいえ痛いものは痛いし、風穴を開けられれば致命傷になることだってある。
あれくらいなら命までは絶たれないだろうけど、心配するには十分すぎる。
「ねえ、凜々蝶ちゃん、ドレスもう買ったの?」
「ドレス?」
「明日の懇親会のドレス」
「ふん、ぬかりはない。実家から持ってきた」
「トップで入学し、新入生代表とは…鼻が高いです」
「明日絶対見に行くから! デジカメで撮影しなくちゃ」
「君達は父兄か」
「ああ、そういえば凜々蝶、新入生代表だったわね」
「……? 知っていたのか」
「当然」
うちの学校は金持ちばかりが集まる、いわゆるセレブ学校だ。
新入生代表の凜々蝶は懇親会での挨拶が決められており、そしてそれは私もだ。
「私、生徒会長だもの」
「そうか、生徒会長……生徒会長!?」
「さすがは華火さまですね」
「全校トップの人気者ね。素敵だわ」
「ありがと」
生徒会長は恐らくほかの学校と同様、選挙で決められる。
とはいえ学校を背負って立つのだ、十人並みの人間では選ばれることはない。
容姿、成績、才覚、家柄。その全てがそろった状態で、かつ周囲の人間を納得させるだけの力がいる。
「そうか、君が……」
「そ。私も懇親会で、凜々蝶の後に歓迎挨拶するの」
「華火ちゃんはどんなドレスにしたの?」
「私は前ので良かったんだけど、お兄さまがね。新しいドレスをこしらえて送ってきたのよ、だからそれを着るわ」
「写真撮るわね。アルバムにして保存しなくちゃ」
「ふふ、どんどん撮っていいわよ。何ならポーズとりましょうか?」
「君は自信家だな」
「自信があるのはいいことよ、凜々蝶」
自信は何より武器になる。たとえ周囲からどれだけ認められていても、自分が自分を認めていないと何もできない。
凜々蝶はまだ、自分に自信がないところがありそうだ。その原因がどこにあるかは、知らないけれど。
「貴方も自信を持つべきね。容姿も家柄も性格も成績も、逸品のものを持っているんですもの」
「……まだ会って一月もないだろう」
「それくらい解るわ。私を誰だと思っているの?」
「誰なんだ」
「龍泉華火よ」
「知ってる」
ただ、もし凜々蝶が成長する機会があるのなら。手を貸してあげたいと思う。
私は凜々蝶が好きだし、それも生徒会長として、そしてSSとしての仕事だから。
「懇親会か〜、懐かしいな。あったなぁそんなの、2年前」
「…お兄さまは高校生でいらしたのですね」
制服を着た連勝。まあ、学ランでも着ていないと高校生に見えない容姿なのは確かだ。
「ね!? 見えないわよね、絶対ニッカポッカか取り立て屋よね!?」
「そういえばまだ高校生だったな…」
「連勝は私と同い年よ」
「お兄さまは大人びて見えますね」
「フォローありがとお。」
くすくす笑って、ふと時計を見る。
もう出発の時間だ。
「私はそろそろ行くわ」
「一人でか?」
「そうよ。SSですもの、一人で平気。野ばらは連勝を、双熾は凜々蝶をちゃんと送ってきてね」
「華火ちゃん、一緒に行かない? 車だし、こいつと二人きりよりそっちのほうが……」
「ありがとう。でもいいわ、ちょっと早めに行きたいから」
「そう……」
手を振って、その場を去る。
すがすがしい気分だ。
まさか帰ってきたとき、その気分が覆されようとは、私は知るよしもなかった。
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