結論から言うと、夜の街はとても素敵なところだった。
そこら中に溢れる見たことのないものに、目を輝かせて店を回る私の姿は、子どものようだったんじゃないかと思う。
妖はと言えば、人を引っ張ってきたにもかかわらず、自分は特に何も見回ることなく私に付いて回るだけだった。
意外だと思わなくはなかったが、妖の行動はとっくに私の理解を超えたところにあるのだ。今更そんなことを聞き返したりはしない。


「着いたぞ。降りれるかい?」
「……ええ」


妖は丁寧に、私を花開院家の自室へと下ろした。
東の空はもう大分白んできている。真っ黒だった空に少しずつ混ざり始める白色は、舞台の始まりのようだ。
物の怪の時間は終わり。世界は、人のものへと姿を変える。
まだ家の者は起きていないようだけれど、あまり長居はさせられない。


「その……ありがとう。……楽しかったわ、とても」
「そいつはよかった。連れて行ったかいがあるってもんだ」


そう言って、妖は得意げに口角を上げた。
その顔を見て、ふと疑問が首をもたげる。
……この妖は、どうしてこんなにも……。


「おっと、そうだ忘れるところじゃった。ほれ」
「……? これは?」
「ちょっとした土産じゃ。アンタに似合いそうだったからのう」


渡されたのは、掌より少し大きい木箱だった。
開けると、中には藤色の飾り紐が入っていた。
いつの間に買ったんだろう。全然気付かなかった。
飾り紐なんて、京の、しかもあんな店では安くないものなのに。


「……貴方、本当におかしいわ」
「そうかい?」
「だって……普通、妖が陰陽師に贈り物なんてしないでしょう? しかもこんな……」
「美しい女を自分の好みに飾り付けて、何が悪い?」
「……っ、また…すぐそういうこと……!」


紐を手に取り、私の髪にあてがうと、「似合うな」と妖は頬を緩めた。
この妖は、本当に自由気ままだ。垣根も違いも全て軽々飛び越えて、あっという間に心の中に入ってくる。
相手は妖なのだ。他の誰かに知られでもしたら、彼は消されてしまう。絶対に、絆されてはいけない。
…いけない、のに。

紐の先に付けられた珠細工が、顔を出し始めた朝日を浴びて鈍く光ったのを見て、妖は踵を返した。


「じゃあな、珀姫。次の三日月の晩……また会おう」
「……あ、待っ……!」


伸ばした手も空しく、妖は煙のように消えてしまった。
ずるずるとその場に座りこみ、膝を抱える。
顔は火照っている。でも心はやけに冷たかった。
迷惑だと言えれば、どれだけ楽だったろうか。
私はこの家の陰陽師だ。家の者は私が術を公に使うことは認めていないのに、いつも花開院の者として、と繰り返す。
分かってる。所詮は陰陽師と妖、敵対する関係なのだ。楽しい時間を過ごそうと、贈り物をもらおうと、それは変わらない事実。
でも、あの妖を滅せと言われたら――私は、そんなことが出来るだろうか?

行き場のない感情に押しつぶされそうになって息を吐く。
しゃらんと響く細工の音色が、重たかった。






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