「ははははは! 牛鬼、お主中々やるのう!」
「いえいえ、総大将の方こそ」
「……すっかり酔い潰れちゃって」


結界術の旅も、もう終盤。後は奴良組本家に帰って、最後の水晶を埋めるだけだ。
だからだろうか、ぬらりひょんは夕餉に用意された酒を、いつもよりよく飲んだ。牛鬼も巻き込んで。
その結果が、これである。


「どちらになりますかな。男児か女児か」
「生意気具合から見ると男じゃろうな。女でもええが、じゃじゃ馬になりそうじゃのう」
「総大将のお子ですからな。一筋縄ではいかない子が生まれるでしょう」
「言う様になったのうこいつ」


滅多に見ないが、ぬらりひょんも酒を飲むと上機嫌になるらしい。いやいつも機嫌は良いのだが、今日は度を超して飲んでいるから。
それに牛鬼も、いつもは真面目だけれど、酒が入ると無礼講になる。彼の場合は丁度良いのかも知れないが。
流石に私は飲む気にはなれず、ぬらりひょんの猪口が空いたら酒を注ぐのを繰り返すくらいだ。……飲ませすぎたのは私のせいかもしれない。


「しかし牛鬼に兄妹が出来るとはのう」
「ええ。感慨深いものです」
「兄妹?」


牛鬼に、兄妹。一体何のことだろう。
首を傾げれば、ぬらりひょんはへらりと笑って言った。


「ああ、珀姫は知らんかったか。牛鬼はワシの子じゃ」
「え、……え? ……え!? は、え、貴方……え?」
「総大将、それでは語弊があります。珀姫様、私からご説明を」
「え、ええ……お願いするわ」


唐突な暴露に混乱する私に、牛鬼が語ったのはこんな話だった。

かつて捩眼山の面々は、奴良組とは別の牛鬼組として栄えていた。
彼等もまた妖怪として戦うのを是としており、そんな彼等に戦いを挑んできたのが昔の奴良組である。
結果として勝ったのは奴良組であり、牛鬼とぬらりひょんは盃を交わしたのだが。
その際に言われた言葉が、


――オレがお前の親になってやるよ――梅若丸


「梅若丸?」
「かつて、人間だった頃の私の名です。私は親を亡くし、牛鬼という妖怪になった」
「そう……そういうこと」


ふう、と胸を撫で下ろす。てっきり、ぬらりひょんと牛鬼が血の繋がった親子かと思った。
それならそれで構わないのだけれど、一つだけ懸念事項が産まれるから。


「ああ驚いた。私てっきり、」
「てっきり?」
「……いえ、何でもないわ。気にしないで」
「何じゃ、言ってみろ珀姫」
「だから何でも、」
「何です? 珀姫様。何かございましたか」
「いや……」


ぬらりひょんに加えて牛鬼も、じとりとした怪訝な顔で見つめてくる。
何でもない、というより言いたくないというのに。無粋だ。
だけれど彼等の視線は私が黙ることを許してくれず。
私はおずおずと口を開いた。


「……ぬらりひょんが、牛鬼の本当の親なのかと思って」
「? いや違うが……それを言い渋っていたのか?」
「……そうよ」
「ふむ、言い渋るほどの事とも思えませんが……」


彼等は色男だが、全ての色男が女心に機敏であるとは考えられない。
どうか真意に気付かないであってくれ、と。そう願う私を置いて、事態は進んでいく。


「言い渋る、ということは言いたくなかったということじゃろう? 何故……」
「……総大将、もしや……」
「ん? 何じゃ?」
「もしも本当に私が総大将の子であったなら、母親がいると言うことになります。つまり……」
「そうか! ワシに過去の女がいたんじゃないかと、つまりそういうことじゃな?」
「…………」


思いっ切り、顔を顰めてしまった。
淑女に相応しくない顔をしているのは分かっている。分かっている、けれど……。

何でこんな時ばかり、頭を回すのが得意なのか。
ぬらりひょんの嬉しそうな顔に腹が立つ。牛鬼の生暖かい目線に苛つきを覚える。


「はっはっは、悋気か! アンタは本当に愛い女じゃの、珀姫よ」
「…………」
「安心せい、ワシは今までもこれからもアンタだけじゃ」
「仲睦まじいようで結構なことですな」
「……」
「のう珀姫、ワシに過去の女がいると思って妬いたのか? ん?」
「……私もう寝るわ。後は二人でやって頂戴」
「まあまあ、もう少しええじゃろ。な?」


立ち上がろうとした肩を、ぬらりひょんが無理矢理掴んで止める。
痛くはないが立ち上がれない。じろりと睨んでも、照れ隠しと取られてますますぬらりひょんの機嫌が良くなる。

ああもう、悋気だなんて馬鹿馬鹿しい。分かっているというのに。


「よいではないですか、珀姫様。ささ、お酒をお注ぎしましょう」
「結構よ。ぬらりひょん、手を放して」
「いいじゃねえか、もう少し付き合え」
「……」


居心地がとんでもなく悪い。が、ぬらりひょんも牛鬼もこれ以上ないくらい上機嫌で。
こうなったら二人に飲ませるだけ飲ませて潰してしまうしかない。
私は酒瓶を掴み、さっさとここから逃げることだけを考えた。
そうするしか、私の解放される道はないようだから。






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