「只今帰りました」
「おう、珀姫。お帰り」
「お帰りなさい、珀姫様」
「ええ。はいこれ、お土産」
「きゃっほう! ありがとうございます!」


出迎えてくれた小妖怪達に土産を渡す。小躍りしながら運んでいく様子にくすりと笑った。
毎度酒になってしまうのも味気ないので、今回は珱姫お勧めの茶菓子の詰め合わせである。
まあ酒でも彼等は喜ぶだろうが、毎回酒だと健康面で心配だし。


「珱姫はどうじゃった?」
「ええ、元気にしていたわ。随分長く話し込んじゃった」
「ええことじゃな。どれ、貸してみな」
「あ、いいの。自分で持つわ」
「そうか?」
「ええ。貴方はゆっくりしていて」


微笑んで、部屋までの道を歩く。
ちらりと、買ってきた贈り物に目をやった。
やはりというか、かなりの上物だったようで、気合いを入れて包装をしてある。
黒の桐箱に入れて、紅の紐で結んで。

気に入って、くれるだろうか。
……否、珱姫だって素敵と言ってくれたじゃないか。
それに相手が気に入るかと言うよりは、私がぬらりひょんに使って欲しくて買ってきたものだから。
ああでも、やっぱり気に入られたいな。折角だから。

部屋について、荷物を置いて。
よそ行きの着物から普段着に着替え、ぬらりひょんの部屋に向かう。
少しだけ、心臓が早鐘を打っている。
どきどきして、緊張して。でも喜んでくれると良いなと思う。


「ぬらりひょん、少し良いかしら」
「ん、珀姫。いいぞ、入れ」
「失礼します」


襖を開けると、ぬらりひょんはのんびりと煙管を燻らせていた。
彼に似合う、黒塗りの煙管。
長年使っているのだろう、大分使い込まれた様子がある。
ごく、と思わず喉を鳴らすと、ぬらりひょんがきょとんとした顔をした。


「どうした?」
「……あの、その」
「うん?」
「……笑わないでね?」
「何をじゃ?」
「その……」


一度深呼吸して、私はぬらりひょんと目を合わせた。


「婚儀を挙げて、もう一年になるでしょう」
「そういえばそうじゃな」
「その間、貴方には色々世話になったわ」
「……珀姫?」
「だから、その……」
「……待て珀姫。何を言う気じゃ」
「こ、これ!」


ばっと勢いよく差しだした、黒の桐箱。
僅かに手が震えている気もするが、今はそんな事気にしてられない。


「買ってきたの。その……お礼に」
「……お礼?」
「そ、そう。……いつもの感謝をこめて」
「感謝……。開けてもいいか?」
「え、ええ」


しゅる、とぬらりひょんの無骨な手が紅の紐をといていく。
どうだろう。私としては、ぬらりひょんにぴったりだと思ったのだけれど。
気に入ってくれるだろうか。


「……これは」
「その……これなら、普段使いできるかなって、思って……」


ぬらりひょんが、目を見開いた。
黒の桐箱の中に入っていたのは、金と漆黒の硝子で出来た煙管だ。
吸い口と雁首は金で、羅宇の部分は硝子で出来ていて、羅宇には龍を模した装飾が施されている。
一目見ただけでぬらりひょんに似合うだろうと思った。彼に使って欲しいと思った。


「……これはまた、見事じゃな。くれるのか?」
「ええ……その、使ってくれる?」
「勿論じゃ」


そう言って、ぬらりひょんは口角を上げた。
ようやく肩の荷が下りた気分になって、私もほっと息をつく。
ああやっぱり、ぬらりひょんによく似合う。いい買い物が出来た。


「いやしかし驚いた。別れを切り出されるのかと思ったぞ」
「別れ!? ど、どうして……」
「いや今まで世話になったなんぞと言うから。……ありがとうな、珀姫」
「……貴方から貰ったものに比べれば、……大したことないかもしれないんだけど。でも、この一年本当に楽しかったのよ。だからお礼に」
「くく……そうか。ワシこそあんたには貰いすぎておるのにな」
「え?」


何もあげてはいないのに。そう思ってぬらりひょんを見ると、彼は優しい顔をしていた。


「アンタが来て、奴良組は間違いなく活気づいた。くるくるよく働く姿も、出入りの後出迎えてくれる姿も。奴良組中が元気付けられておる」
「大袈裟ね」
「大袈裟なんかじゃねえさ。それに……鯉伴もな。珀姫のおかげで、奴良組はこの先もっと大きくなるじゃろう」
「……私の力じゃないわ。皆が頑張っているのよ」
「そうかもな。でも大本は間違いなくアンタじゃ」


そう、だろうか。
奴良組はまぎれもなく総大将によって活気づけられていると思う。ぬらりひょんがこれまで組を引っ張ってきたのだ。
それでも、その一助になれているというのなら。そんなに嬉しいことはない。


「ありがとうな、珀姫」
「お礼を言うのは私の方なのに」
「いいじゃねえか。……これも、ありがたく使わせてもらうとするかのう」
「そうしてくれると嬉しいわ」


ぬらりひょんが桐箱から、そっと煙管を手に取った。
金も硝子も、長い間持つものだ。
私が死んだその先も、彼に使って貰えたなら。きっと彼は、時々だとしても、私のことを思い出してくれるだろう。なんて。
そんな思惑も、この贈り物には含まれているのだけれど。
それは、私だけの中に留めておくとしよう。






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