「……っ、う…………」
「! 珀姫!」
「母さん!」


目を開ける。途端眩しい光に目がくらんで、目を閉じた。
ゆっくりとまた瞼をあげると、そこには天井を背景にした、ぬらりひょんと鯉伴の姿が見えた。


「ぬら、りひょ……りはん……」
「無理に起きるな、珀姫」
「母さん……」


ああ、よく似ている。よく似た二つの顔が、私を見下ろしている。
不安げに揺れるまなざしも、そっくりだ。

私は何をしていたのだっけ。ああそうだ、鯉伴の成人の祝いで、酒を飲んで、それから――。


「わ、たし……」
「……随分と苦しんでおった。鯉伴の成人の祝いから、もう今日で七日目じゃ」
「七日……!?」


嘘でしょう、まさか。
羽衣狐に腹を刺されたときだって、三日で目を覚ましたのに。
いくらあのときは珱姫の力があったとは言え、そんなの。
じゃあ、まさか。


「り、鯉伴のお祝い、どうなったの……?」
「それどころじゃねえだろ。待ってろ母さん、今鴆を呼んでくるから」


鯉伴は答えてくれなかったけど、分かってしまった。
盛り上がったところで私が倒れ、きっとそのまま祝いの儀は中断されてしまったのだろう。
……折角の、お祝いだったのに。
私のせいで、台無しにしてしまったのだ。
急いだ様子で部屋を出て行った鯉伴を見ながら、ため息を吐いた。


「珀姫、気分はどうじゃ。どこが痛い?」
「今は……どこも。大丈夫」
「じゃが……随分と、うなされておったぞ」
「うなされて……」


そういえば、何か夢を見ていた気もする。なんだったっけ。
……駄目、覚えてない。気だるさに全身が支配されているみたい。
ゆっくりと布団から上半身を起こす。くらりと脳が揺れた気がした。


「っ……」
「珀姫、寝てろ。無理するな」
「平気……それより鯉伴に、」
「鯉伴?」
「何だ母さん? 俺に何か……あ! 起き上がったら駄目だろ! 寝てろ!」
「貴方たち、同じ事言うのね……」


丁度鯉伴が戻ってきたところだったらしい。私の姿を見るなり鯉伴は慌てた声を出した。
思わずくすりと笑ってしまう。ぬらりひょんに似て優しい子だ。
鯉伴は鴆を連れてきてくれて、彼に少し問診を受け、いくつかの診察を受けた。けれど。


「…………」
「……鴆、どうなんじゃ。珀姫の容態は」
「…………」
「鴆!」
「……わかり、ませぬ」
「……なんじゃと?」
「珀姫様の症状が現れる病は、いくつかあるのです。あるのですが……どれも、今の珀姫様に現れたものとは、いささか異なるものがあって……」
「……つまり?」
「……申し訳ございません、珀姫様、先代、鯉伴様。今の状態では、珀姫様がお倒れになった原因が何か……私には、分かりませぬ」
「チッ!」
「……ぬらりひょん」
「……悪い」


ぬらりひょんの舌打ちに、鴆が申し訳なさそうに眉間にしわを寄せる。
けれど悪いのは鴆ではない。彼が分からないなら誰も分からない。
重い病ではないことを願うしか、ない。


「……今は大分、気分もいいわ。また症状が出たら報告するから、気付いたことがあったら教えて頂戴」
「御意」
「あと……こんなこと言っても気休めにしかならないかもしれないけれど。……あんまり、気に病まないでね」
「しかし……」
「鴆」


名前を呼ぶと、鴆が此方を向いた。
ゆるりと口角を上げ、ねだるように微笑む。


「お願い」
「……わかり、ました」
「それから……鯉伴、ごめんね」
「は? 何が?」
「……折角の、成人のお祝いだったのに」
「……っ」


鯉伴は、くしゃっとした顔をした。
昔から変わらない。大人になっても。
泣き出す直前のような顔だ。
この子はいつも、悲しいときこの顔をする


「いいんだよ、そんなの。その代わり……元気に、なってくれよ」
「……ふふ、そうね」


顔を俯かせた鯉伴に頭を撫でてやる。ぬらりひょんとはまた違う、手触りの頭だ。
いつももうそんな年じゃないと手を振り払われるのに、此度ばかりは彼は大人しかった。


「……暫く珀姫は療養じゃな。ここの部屋でもいいが……離れの方が日当たりがいいから過ごしやすいか?」
「そう……そうね。流行病だったとしても安心だし」
「そういうことじゃねえんだが」
「あら、失礼」


私が考えているより、ぬらりひょん達はもっと事態を重く受け止めているらしい。
……まあ、7日間目覚めなければそうなるか。
元気づけたくて微笑んでみたけれど、ぬらりひょんは困ったように笑うだけだった。








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