「っぅ、あ……けほ、っぐ、う……!」
「珀姫、しっかりしろ、おい!」
「珀姫様……!!」
「う、っ……た、い……」


い、たい。いたい、くるしい……!
思わず掛け布団の上から胸を握りしめるも、症状は何ら変わらない。
心臓が握りつぶされそうに痛い。
呼吸をする度、肺に痛みが走る。

療養生活は、何も調子の良いときばかりではない。
外を出歩けそうなくらい元気なときだって、勿論あるけれど。
今日のように苦しくて、目を開けるのすらやっとの時だってある。


「う、……っは、……っ」
「母さん……!」


ぬらりひょんと、鯉伴。それから……鴆?
名を呼ばれるのは分かるけど、返事が出来ない。
は、は、と呼吸に集中しようとしたって、それすら痛みが走る。
……しにそう。


「ゆっくり息を吐いて、それから此方を吸って下さい。楽になります」
「う……」


瞼を開けると、かすむ視界の中で、鴆が口元に何かを当ててきた。薬だろうか。
苦しい呼吸の中で必死に吸う。吸入薬だ。
それから少し経つと、息をするのが幾分か楽になるのを感じた。


「……あ、りがと……ぜん……」
「いえ……申し訳、ございません……」


ああ、少し楽だ。痛みが軽くなった。
瞼を閉じ、ゆっくりと息を吐き出す。
何の病か分からなくても薬を作れるなんて、鴆は本当に名医だと思う。
彼は、私の病が分からないことに苦しんでいるけれど。


「珀姫……」
「母さん……」
「へいき……だいじょうぶ、構わないで……」
「何が平気じゃ! 体がこんなに冷たくなって……!!」


す、と手を取られる。あつい。
これは……ぬらりひょんの手だろうか。
まるで熱が出ているように熱いけれど、私の方が冷たいのだろうか。わからない。


「ぬら、あつい……手、はなして……」
「やかましい。アンタが冷たいんじゃ」


ぎゅ、と握られる手が、若干震えている気がする。
……気のせいか。妖怪の長がそう簡単に震えるわけがない。

わずかに開けた瞼の隙間から、ぬらりひょんの顔が覗く。
へら、と笑って見せたのに、彼は悲しそうに眉をひそめた。


「……親父、母さんの病気はまだわかんねえのか?」
「……ああ。江戸の名医にも訪ねたが、……まだじゃ。範囲を広げるか」
「大丈夫だって……言って、るのに……」
「大丈夫じゃねえだろ」


ぴしゃりと鯉伴の声が聞こえた。厳しい子。
総大将の業務がただでさえ大変そうなのだから、あまり迷惑はかけたくないのだけれど。
それに、と私は鯉伴に目を向けた。


「…………っ」
「母さん、苦しいのか? 水飲むか?」
「いえ、……なんでも」


鯉伴の体を囲うように、黒い靄が見える。
ぬらりひょんと、鯉伴。
私が倒れてから、症状のあるときにはいつも、この靄が見えた。
何なんだろう。他の人には見えていないみたいだ。
あまり、良いものではない気もするけれど。わからない。

ふう、と息を吐いて。静かに目を瞑った。
きっと数日経てば、また平気になる。いつもそうだ。
私の症状には波があって、一月に一回か二回、こうして酷くなることもあるけれど。
少し経てば、大丈夫になるから。
だから心配しないでと、言いたかったのだけれど。
それを言う前に、私の意識は暗転した。








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