その日はよく晴れた日で、雲一つない青空が広がっていた。
ぼんやりと窓から外を眺めていると、縁側の方の障子から「母さん」と鯉伴の声がした。


「今良いか?」
「ええ、ちょっと待って」


今日は体調もいいし、ちょっとくらい動いても平気だろう。
そう思って障子を開けた先、鯉伴の隣には一人の女性が立っていた。
誰だろう。思わず視線を向けると、彼女もまた此方を向いていた。
長い黒髪は艶やかで、真っ白な肌に黒曜石のような瞳。
視線が合った瞬間、その瞳が見開かれる。


「綺麗……」


……?
今、思わず口に出したかと思った。
けれど今聞こえた声は、私のものではない。
今までに一度も聞いたことのない、けれど透き通った美しい声。
これは……。


「山吹?」
「! す、すみません……。つい……お綺麗な方だと、声に出てしまって」
「あら……」


彼女は思わずと言った様子で口を押さえる。
その様子が何だか可愛らしくて、くすりと笑ってしまった。


「私も、同じ事を考えていたわ。綺麗な方ね」
「え……?」
「初めまして。鯉伴の母の、珀と申します。鯉伴、この方は?」
「ああ、この人は……」
「山吹乙女、と申します。よろしくお願いします」
「こちらこそ。……ところで鯉伴、女性をわざわざ私の所まで連れてきたって事は、もしかして……」


無意識のうちに、期待するような目を向けてしまう。
鯉伴はそれに応えるように、こくんと頷いた。


「母さん。オレ、この人と結婚しようと思うんだ」
「まあ……!」
「結婚!?」
「え?」
「あら、ぬらりひょん」


予想通りの言葉に思わず手を合わせて笑顔を浮かべれば、驚いたような声が横から聞こえた。
見ればそこにいたのはぬらりひょんだ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。


「なんだよ親父、聞いてたのか」
「聞いてたのか、じゃねえ! 鯉伴、お前いきなり娘っ子連れてきて結婚たあどういうことじゃ!」
「それは親父も同じだろ。雪麗に前聞いたぞ、母さん宴の場に連れてきていきなり求婚したって」
「ぐ……雪麗め、余計なことを……」
「二人とも、喧嘩はそこまでになさい。お客様の前でしょう」


私は一つため息をついてから、改めて山吹乙女と名乗った彼女に目を向けた。


「騒がしくてごめんなさいね。とりあえず、縁側でする話でもないし、部屋を用意するわ。鯉伴、離れじゃなくて、元の私の部屋にご案内差し上げて頂戴」
「おう」
「私は厨に行ってくるわ。お茶とお茶菓子を用意しないと……ええと、山吹乙女さんと言ったわね。甘いものはお好きかしら?」
「は、はい」
「待て珀姫、アンタ厨まで一人で行く気か。倒れたらどうする」
「今日は大丈夫よ。心配なら貴方も一緒に来る?」
「……おう」


立ち上がって廊下を歩いて行けば、ぬらりひょんが後から着いてくる。
ちらりと振り返って見た二人は、本当に幸せそうに笑っていた。







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