……ううん、気になる。
部屋の障子も襖も全部閉めているのに、のぞき込むような視線を感じる。
あと大量の妖気も。まあ総大将が女を連れてきたとなれば気になるのは当然だけれど。
盗み見している子達が沢山いるみたいだ。全くもう。


「それで、結婚とか言ったが。鯉伴、お前本気か?」
「おう。本気じゃなきゃ連れてこねえよ」
「……しかし……」
「あら、いいじゃない」
「え?」
「私は良いと思うわ、ぬらりひょん」
「珀姫……」


用意したお茶を啜りながらそう告げると、ぬらりひょんは驚いたような声を出した。


「……良いのか?」
「ええ。鯉伴が選んだ人ですもの、いい人に決まっているわ」
「母さん……」
「……アンタはいいのか? こいつの嫁は……ちと大変だぜ?」
「はい、妾は。ふつつか者ですが……よろしくお願い致します」


そう言って、山吹乙女さんが頭を下げる。
淑やかな仕草。艶やかな濡れ羽色の髪。
本当に綺麗な人だ。鯉伴の横に並び立つとあつらえたように美しい。


「ふふ、それにしても鯉伴が、こんなに綺麗な人を連れてくるような歳になったのねえ。何だか感慨深いわ」
「成人してから何年経ったと思ってるんだよ、母さん」
「親にとっては、子どもはいつまで経っても子どもなのよ」
「ったく……」


でもそうか、見られるのか。
腹を痛めて産んだ我が子のお嫁さんが、ついに。
私は改めて、山吹乙女さんに目を向けた。


「ええと……乙女さん、と呼んでもいいかしら」
「はい」
「差し支えなければ、色々お話を聞きたいわ。それから、その……」
「……? 何でしょう」
「もし良ければ、なのだけれど。鯉伴と結婚するということは、私の義理の娘になるということだから……私の事は、母のように思って頂きたいのだけれど……」
「! よろしいのでしょうか、私が……」
「勿論。あ、嫌だったらいいのだけれど……」
「いえ、嬉しいです……! その、お義母様、とお呼びしても……?」
「ええ、是非……!」


まさかこんなにも素敵な娘が出来るなんて。
笑顔を浮かべれば、乙女さんもまた柔らかく微笑んだ。


「ふふ、嬉しいわ。これからよろしくね、乙女さん」
「はい、お義母様」


目線を合わせ、ふっと微笑み合う。
山吹の名の似合う、可憐な人だと思った。


「時間はまだたっぷりあるし、もっとお話しして仲良くなりたいのだけれど……その前に」
「……?」
「いい加減、出てきたらどうかしら。盗み見なんて趣味が悪いわよ」
「え……?」


その途端、がらりとふすまや障子が開いた。
そろそろ、というかぞろぞろと出てくるのは、気まずそうな顔をした小妖怪達。
後から後から沸いて出て、終いには牛鬼やカラス天狗、木魚達磨まで姿を見せた。


「あ、あの……皆さん、このおうちの方なのですか?」
「そうなんだけれど……。ごめんなさい、礼儀がなってなくて……」
「いや珀姫様〜、違うんですよぉ」
「鯉伴坊ちゃまが女の子連れてきたってんのに仕事なんかしてらんないじゃないですか〜」
「鯉の坊の嫁さんとくりゃ見ねえわけにはいかねえよ」
「珀姫様の元気なお姿も久しぶりに見れたし……」
「そ、それにしてもよく我々がいることに気付かれましたな、流石は奥方様! お見事!」
「煽てても駄目です。貴方たちには後でお話がありますからそのつもりでいなさい」
「…………ハイ」


ぴしゃりと言えば、彼らは揃って縮こまった。
全くもう、とため息をつく。すると乙女さんが、くすくすと肩をふるわせた。


「ふふふ、賑やかなおうちですね」
「賑やか……まあ、賑やかなことに変わりはないわね……」
「鯉伴様がお育ちになったおうち、という感じがします」
「そうかしら……?」


まあ、鯉伴も大分自由な子だし。
この家で育てばそりゃあ自由になるか。躾はきちんとしたつもりだけれど。
こほん、と咳払いをして、私は彼女に目を向けた。


「改めて。奴良組へようこそ、山吹乙女さん」
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」


開いた障子から、一陣の風が吹き込んだ。
新たな門出を祝うような、穏やかで、爽やかな風だった。







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