さて前述したとおり光柱の冬麗椿、かなりの変人である。気が違っているという者もいる。
だが彼女は意外や意外、鬼殺隊の柱からは信頼と信用、そして本人はあずかり知らぬ所だが――数名からはじっとりとした湿度の高い感情を向けられている。
何故かと言えば、それは。
【胡蝶しのぶの場合】
「うふふ、本当に椿ちゃんって面白い子」
「やあ、カナエ嬢に言われるとうれしいな」
「……冬麗さん、来てたんですか」
「お、しのぶ嬢。お邪魔しているよ」
それは数年前のこと。
にこやかに笑う冬麗椿に、胡蝶しのぶは眉間のしわが深まったのを自覚した。
冬麗椿。胡蝶しのぶと一つしか違わないのに、もう光柱まで上り詰めた女。
そしてやけに姉のカナエと気が合い、仲良くしている女。
「……また鬼の血でも持ってきたんですか? うちは貴方の所の研究所からのれん分けしたんでも何でもないんですけど」
「こら、しのぶ」
「流石しのぶ嬢、勘が良い。今回は鬼の血と藤の花を大量に。うちよりここにある機器の方が分析結果出るの早いんだよね」
「ならそちらでお買い上げなさっては? 資金ならいくらでもあるでしょう、光柱様」
「生憎と場所が無い。それに、ここにもどうせいずれは必要になるだろうし」
「どういう意味です?」
「さあ、時が経てば分かるよ」
……こういうところだ。しのぶは椿のこういう所が気に食わないのだ。
飄々としていて、何を考えているか分からなくて、何でも煙に巻くところ。
お前には分からないと言われているようで、気位の高いしのぶにはカチンとくるのだ。
「ふむ、でもそうだね。いちいちここに来るよりは、自宅に買った方が良いかもしれないな。研究部屋を増やすか……いっそもう一つくらい屋敷を建てるか」
「そうなったら椿ちゃん、もうここに来てくれないの?」
「ふふ、カナエ嬢が淋しいというならいくらでも来るよ」
「来て来て、お話ししましょ。同世代の女の子、しかも柱は私達だけなんだもの」
「…………」
あと、妙に姉が気に入っているところもイヤ。
何がそんなにいいのか分からない。見目は確かに整っているが、しのぶから見れば姉だって負けていないし、何より何度か任務で一緒になったときに必ず鬼の血や肉片を持って帰るその様が奇妙奇天烈でイヤだった。
「……柱なんだから稽古でもしたらどうですか。研究なんかしなくても、貴方は鬼を殺せるんだから」
「…………」
「ッ、なんですか」
「いや、なんでも?」
そう、椿は強い。自分が任務で苦戦する鬼を、一撃で倒せるくらいに。
……対してしのぶはどうだろう。鬼の首を斬れたことは今まで一度も無い。毒で鬼を倒せないかと試行錯誤しているがそれも上手くいかない。
椿くらい上背があったら、筋肉があったら、鬼の首を斬れたら。そしたらこんな思い、しなくてもすむのに。
劣等感とは憧れの裏側である。
そして胡蝶しのぶの劣等感は、冬麗椿の形をしていた。
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