第1Qが終わり、二分の休憩に入る。
兄さんと火神君の伝えた作戦に、監督は好感を示した。
「…なるほど、うん。いけるかもソレ。火神君もやっと頭冷えたみたいね!」
「いやオレは最初から…」
「超ムキになってたよ!」
「けど、黒子君と火神君、二人の連携が大事よこれ。できる?」
「…う、なん…とか…」
監督の言葉に、火神君は弱腰だ。
けれどそこに、兄さんがびしっとチョップをくらわした。
「テメ、何いきなり…」
「黄瀬君を倒すんでしょう?」
「……。ったりめーだ!」
びしっと、火神君がチョップを返す。
「兄さん。……火神君」
「はい」
「なんだよ?」
「……その。頑張ってくださいね」
「! おう」
「はい」
まるでかつての、兄とその相棒のやり取りのような。
懐かしいそれに、思わず言葉が出た。
「何だマネージャー、俺たちのことは応援してくれないのか?」
「!? す、すみません……おこがましいかと」
「おこがましいってなんだ」
「可愛い女子から応援されたら気合も出るってもんよ」
「すみません、妹に粉かけないでください」
「ブラコンか!」
先輩の言葉に、兄さんがすかさず反撃する。
兄さんのその言葉は普段通りなので、何も思わないけれど。
「……皆さん、ファイト。です」
「おう!」
「そうね。逆襲よろしく!」
第2Q、開始だ。
「それにしても、珍しいわね。千瀬ちゃんが応援なんて」
「へ、あ……」
「あんまり声出すタイプじゃないじゃない? あ、責めてるわけじゃなくてね」
「そう…ですね」
大きな声を出すのは、苦手だ。
応援は大事だと思うし、その気持ちもある。ただ私は声を出しても気づかれなくて、応援することに消極的になってしまっていた。
それでも。
「この試合に勝てば、兄さんと火神君、二人にとって大きな経験になると思うんです」
「うん。そうね」
「だから……その、頑張ってほしくて。すみません」
「なんで謝るの。いいのよそれで」
ぱし、と監督に背中を叩かれる。
監督の激励は力が出る。私も改めて、前を向いた。
火神君がドライブ。黄瀬君が追いすがる。
けれど火神君がボールを投げたのは、黄瀬君の後ろで。
そこに現れた兄さんが、すかさずボールをはじいた。
「おお」
火神君が再びボールを取り、シュートを決める。
「っし!!」
「オッケナイッシュー」
兄さんのパス。日向先輩の3Pシュート。順調に得点を重ねていく。
今まで別々だった兄さんのパスと、火神君の1on1。でもそれが繋がったことで、攻撃力が増す。
黄瀬君がどれだけ強くても。兄さんも、火神君ですら歯が立たなくても。
二人でなら、戦える。
けれど問題は、兄さんが40分フルに持たないこと。
それなら後半ジリ貧になるのは目に見えている。
そこで、兄さんが出した作戦は。
「なっ…」
「黒子が…黄瀬のマーク!?」
兄さんが、黄瀬君につくことだった。
一見すると相手にもならない。パス特化の兄さんじゃ、黄瀬君は止められない。
練習の時だって、黄瀬君と兄さんがこんな風に向き合っているのを見たことはない。
だけどそれでいい。兄さんの狙いは、止めるんじゃなくて。
「獲るのよ!」
黄瀬君のボールを、兄さんが後ろからバックチップでとった。
黄瀬君が3Pを決めようとする。外から攻撃するつもりだ。
けれど、それに兄さんが対応できなくても。
「!!」
火神君が弾き飛ばした。
いける。この流れなら。
そう、思った一瞬のこと。
「っちっ…」
がっ、と。
黄瀬君の手が、兄さんの頭に衝突した。
「あっ!!?」
「兄さん!」
「黒子君!!」
「レフェリータイム!!」
兄さんの額から、血が垂れている。目を伝って頬まで。
「大丈夫か黒子!?」
「……フラフラします」
「千瀬ちゃん、救急箱!」
「はい、ここに!」
運ばれてきた兄さんの血を拭いて、手当をする。
兄さんが、というかバスケでけが人が出るのは、多いことではないけれど、珍しいことでもない。
それでも頭からの出血だ。万が一がある。震えそうになる手を叱咤しながら、包帯を巻く。
「兄さん、兄さん、しっかりして……!」
「う……だい、じょうぶ、です」
「大丈夫じゃないですよ……」
兄さんはもう出せない。あとは残りのメンバーで何とかするしかない。
作戦会議をする先輩たちをよそに、私はそっと兄さんの頭をベンチに横たえた。
「早いけど、「勝負所」よ日向君! 黄瀬君に返されるから、火神君OF禁止! DFに専念して。全神経注いで黄瀬君の得点を少しでも抑えて!」
「そんな…それで大丈夫なんで…すか?」
「大丈夫だって、ちっとは信じろ!」
「でも……」
「大丈夫だっつってんだろダアホ! たまにはちゃんと先輩の言うこと聞けや殺すぞ!」
「……!?」
「行くぞ!」
なんだか日向先輩の口調が変わった。
以前監督から聞いたことがある。日向先輩はスイッチが入ると口調が変わり、その代わりにシュートを落とさないと。
「どう、千瀬ちゃん。黒子君の様子は」
「……病院には、行った方がいいと思います。深い傷ではなさそうですが、頭なので」
「そう。じゃあ終わり次第病院ね」
「先輩方は…大丈夫でしょうか」
「大丈夫よ。あいにくウチは一人残らず、諦め悪いんだから」
そうは言っても、やはり兄さんがいないと苦しいのは変わらない。
点を入れて、入れられて。兄さんがいなくてパワーダウンしているのは変わらないのだし。
第3Q、残り3分の時点で、68対74。
正直、戦況はいいとはいえなかった。
「カントク…何か手はないんですか?」
「…前半のハイペースで、策とか仕掛けるような体力残ってないのよ。せめて黒子君がいてくれたら…」
「…わかりました」
「え?」
むくり、と起き上がる影があった。
その光景に目を疑う。
そうだった。諦めが悪いのは、兄さんも同じだ。
「おはようございます。…じゃ、行ってきます」
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