その後、試合はとんとん拍子に進んでいった。
新協学園を下した後、2回戦、3回戦と勝ち進み。
兄さんは温存したまま、驚くほど順調だった。

4回戦の会場は、今までより広々としていた。


「広ぇ〜……ここ本当に学校の体育館スか?」
「都内有数のマンモス校だからね。おかげで今日はすごいもん見れるわよ」
「へ?」


決勝リーグを経て選ばれる東京都の代表は、ここ10年ずっと同じだ。
東の王者秀徳。西の王者泉真館。北の王者正邦。それが東京都不動の三大王者なのだという。


「今日ここは2会場分試合をやるから、隣のコートに普通は他会場でやるシード校がくる。…つまり、「キセキの世代」緑間真太郎が加入し、今年北と西の制圧を目論む東の王者、秀徳高校が出てくる…!」
「けど…先輩たちも去年決勝リーグまで行ったんですよね!?」
「まあ…手も足も出なかったけどな」


去年の誠凛の試合は、今年に入ってから資料を探して見たことがある。
けれど、それを見る限り――。
……否、去年のことだ。


「その雪辱を果たすために一年間練習してきた! しかも新勢力もいる! 今年は必ず倒す!! 何よりまずは目の前の相手だ、集中して…」
「おいおい今日の相手って誠凛だろ!? ヨユーだよ。去年決勝リーグでボコボコにされてたじゃん」


聞き覚えのある声だ。
どやどや話しながら入ってきたのは、どこかで見たことがある顔ぶれだ。
どこだっけ。確か、ええと、兄さんが喧嘩を売りに行ったストリートの……。


「いくら王者相手でもあれはねーって。新設校が偶然勝ち進んじゃっただけだよ! 今年もそうならないようオレらが代わりに…ボコボ…!?」
「よう。また会ったな」
「こんにちは」


一気に血の気の引いた相手方。何となく心情を察して、ちょっと憐れんでしまう。

四回戦の相手はその人たちだった。言わずもがな、瞬殺だ。


そして。


「……! オイあれ…」
「来たぞついに…今年は特にすげーってよ…」
「東京都三大王者の一角…東の王者、秀徳高校……!!」


オレンジのジャージ。不撓不屈の文字。
そしてその中にいる、長身の彼。

緑間君だ。


「ちょっと一年同士アイサツ行ってくるっスわ」
「ああ…お!? オイ!!」


火神君が先輩の制止も聞かず、ずんずんと進んでいく。
その先はやはりというか、緑間君で。


「よう。オマエが緑間真太郎…だろ?」
「……そうだが。誰なのだよキミは?」


眉根を寄せる緑間君。
そこに火神君が、手を差し出した。握手だろうか。
すると。

きゅ、きゅ。そんな音がして。
緑間君の、いつもながらきれいにテーピングされた左手に、火神君の名前が書かれていた。


「なっ…!?」
「フツーに名乗っても、いかにも「覚えない」とか言いそーなツラしてるからなオマエ。センパイ達のリベンジの相手にはキッチリ覚えてもらわねーと」
「…フン。リベンジ? ずいぶんと無謀なことを言うのだな」
「あ?」
「誠凛さんでしょ? てかそのセンパイから何も聞いてねーの?」


緑間君の横から出てきたのは、黒髪の男の子。誰だろう。


「誠凛は去年、決勝リーグで三大王者全てに、トリプルスコアでズタズタにされたんだぜ?」
「息巻くのは勝手だが、彼我の差は圧倒的なのだよ。仮に決勝で当たっても、歴史は繰り返されるだけだ」


そう言い放った緑間君は、声色が硬い。
ライバルになったのだと、改めて思う。

その時、ぽとりと何かが落ちた。クマのぬいぐるみだ。
拾ってまじまじと見つめる。かわいい。今日のラッキーアイテムだろうか。


「……落ちましたよ」
「……」
「過去の結果でできるのは、予想までです。勝負はやってみなければわからないと思います。緑間君」
「…黒子。それに妹の方の黒子」
「お、久しぶりです」


ぺこりと頭を下げる。兄さんも喧嘩を売るなあ。好戦的な人だ。


「やはり…オマエは気にくわん。何を考えてるか分からん目が特にな…。言いたいことは山ほどあるが、ここで言っても虚しいだけだ。まずは決勝まで来い。それと……黒子」


緑間君の目が、こちらを向いた。
す、と手が差し出される。こういうことだろうかと、先ほど拾ったクマを乗せてみた。


「ああ」


頷かれた。合っていたらしい。


「いやー! 言うね! あれっしょ? キミ、真ちゃんの同中っしょ?」


先ほど緑間君の隣にいた黒髪の人が、兄さんの肩に腕を回した。


「気にすんなよ。アイツツンデレだから! ホントは超注目してんだぜ〜!?」
「いつも適当なこと言うな高尾」
「いつまでしゃべってる、二人共! 行くぞ!」


秀徳の……三年生だろうか、体の大きな人に呼ばれて、二人が下がっていく。
私も戻ろうとしたとき、緑間君が「黒子」と呼んだ。


「見ておけ。オマエの考えがどれだけ甘ったるいか教えてやろう」


緑間君は、いつも冷静で。
けれどその力に見合う、熱を秘めていた。






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