秀徳高校と錦佳高校との試合は、差が圧倒的だった。
第2Q、4分を残してもう30点差。
元々王者と呼ばれている秀徳に、今年は緑間君が加わっているのだ。こうなるのも頷ける。
「でもやってることはオレらとあんま変わらないのに、なんかスゲーカンタンそーにバスケやるよな…なんでだろ?」
「それはミスがねーからだよ」
日向先輩曰く、バスケは常にハイスピードでボールが行き交うスポーツだ。パスをとるだけでも失敗することはありうる。
けれど強いところは、投げたり獲ったり走ったり、そういう当たり前の動きからできている。
簡単そうに見えるということは、基本ができているということなのだという。
「ま、あくまで基本だ。それ以上の理由が当然ある。…それは」
秀徳高校の背の高い生徒が、勢いよくダンクを決める。
あの顔は見たことがある。確か三年生の大坪さんだ。
「絶対的な得点源がいるってことだ…」
「すげぇダンク!」
「マジあれ高校生!?」
「また一段と力強くなってるわね」
「去年アイツ一人でも手に負えなかったんだけどな…」
私が中学の時に聞いた、秀徳の評価。それはインサイドが大坪さんで、それを主体にしたチームだ。
けれど、今年はそこに緑間君がいる。
「今日、今んとこ5本中5本か。緑間はずいぶん調子いいみてーだな」
「……?」
「そうなんですか?」
「いや知んねーよ! つかオマエらの方がわかんだろが!」
中を固めろ、外はある程度仕方ない。そんな錦佳高校の声が聞こえてくる。
……調子がいい、と言えばそうかもしれない。でも、私は。
「さぁ…? 彼が外したとこ、見たことないんで…」
緑間君がシュートを外すところを、見たことがない。
「ある程度しょうがない…? だからオマエらはダメなのだ」
見慣れた美しいフォーム。高い身長とジャンプから繰り出される、きれいな3Pシュート。
異常なほどにループの高い、いつもながらほれぼれするほどのシュートだ。
「戻るぞ高尾、DFだ」
「オマエいっつもそうだけどさー。これで外したらオレもどやされんだけど」
「バカを言うな、高尾。オレは運命に従っている。そして人事は尽くした。だからオレのシュートは、落ちん!」
緑間君は、フォームを崩されでもしない限り、必ず――100%、シュートを決める。
「うっ、…おっ、おおお…!」
「すげえ100発100中!? これが…「キセキの世代」No.1シューターか!!」
「……マジかよ…」
「えげつないシュート打つな〜。てか入る前に緑間DF戻ってるし、速攻できなくね?」
「着弾までの時間が異常に長い…こりゃ精神的にもクるわね…」
試合終了。錦佳21点に対し、秀徳の得点は153点。
圧倒的だ。今年の秀徳はいつにもまして、強い。
ちらりとこちらを見上げた緑間君は、中学の時と同じ、冷静な顔をしていた。
試合が終わり、廊下へと出る。相変わらず、緑間君のシュートは人間離れしているな、と思った。
「よーし、じゃあ帰…」
「…るな〜!!」
「いてぇ」
「今日もう一試合あんのよ! バカか…バカなのか!」
「冗談だよっ。暗いムードだったからさー」
「え? マジ?」
「やっぱバカか! バカガミか!! ちゃんと表見とけ!」
「火神君、どうぞ。予備の試合表です」
「お、おう……」
予選4回戦と最終日は二試合ずつやることになっている。
今は二時半過ぎ。五時からまた、五回戦が始まるのだ。
「でも改めて考えると、一日二試合ってムチャだよな」
「時間空くっても、疲れは残るし」
選手は確かに、疲労もたまるだろう。
マネージャー業務も楽なものではないけど、選手に比べればましだ。
疲労回復にはやっぱり、レモンのはちみつ漬けなんかを作っておくべきだろう。
「準決勝・決勝も一日でやんのか……ん? てことは秀徳の前に一試合やんのか? ……!?」
渡した試合表を、火神君が眺める。とたん、彼は驚愕した顔をした。
「センパイ…三大王者って秀徳とあと…」
「正邦と泉真館!」
「……これって…」
「……!? カントク…これって…」
「ちょっと…二年生も気付いてなかったの!?」
「いや…いつも違うブロックだから、目に入ってなかったわ……」
私も自分の試合表を取り出して、見つめる。
このままいけば、最終日は。
「おそらく準決勝は正邦! 決勝は秀徳! 北と東の王者と二連戦なのよ!」
緊迫した雰囲気が辺りを包む。
ただでさえ強いところとの試合は大変だ。それが二連戦ともなれば、選手の疲労も並ではない。
「マッジッかよ!? 一時から準決勝で五時から決勝!? 死ぬし!」
「ちょっとこれ…さすがに弱音吐きそーだぞ!?」
「ハッ、一日に二試合できて…両方強ーんなら願ったり叶ったりじゃねーか!」
火神君はやはり好戦的だ。顔からわくわくがにじみ出ている。
そしてそれは、私の隣にいる彼も同様に。
「いや火神…さすがにこれは…ないって! そもそも準決勝に勝てるかもわかんないのに…」
「どんな強がりだよ……なあ黒子!」
「すいません。ボクもちょっと、ワクワクしちゃってるんですけど…」
兄さんが珍しく楽しそうだ。
……いや、兄さんは元々、ことバスケに関しては、キセキの世代と同じくらい好戦的な性格だったか。
「はぁ!? 何、オマエも火神菌伝染ったの!?」
「なんだよ火神菌って!?」
「それは嫌です」
「なんか否定の仕方もムカツクぞ、黒子テメー」
「でもピンチってちょっと…燃えません?」
私は兄さんの、こういう性格が好きだ。
ピンチなんて普通はしり込みしてしまうものなのに。兄さんは本気でワクワクするというのだから。
私とは似ても似つかない。双子なのに。でも憧れる、兄さんのこういうところ。
「ハッ」
「いいことゆーじゃん、好きよーそーゆーの!! けどその前に5回戦あんだからね! もう一度気を引き締めなおして絶対勝つわよ!」
「っしゃー、テンション上がってきた…ちょっと練習して…」
「くんな! 休めよ!! 千瀬ちゃん、バカガミ監視してて!」
「は、はい!」
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