IH予選5回戦は、対白稜高校だった。
弱くはない相手だ。おまけに今日二試合目。
伊月先輩は足をつり、兄さんのパスも精度を欠き。
それでも2点差で勝利し、誠凛は準決勝進出と相成った。








とんとん、とドアをノックする。いつもなら聞こえてくるはずの兄さんの声はしなくて、私はドアを開けた。
カーテンが閉められた、兄さんの部屋の中。壁際に置かれたベッドが盛り上がっていた。


「兄さん、兄さん」
「……」
「兄さん。朝ですよ。ごはん、できましたよ」
「……う」


もぞ、と掛け布団が動き。兄さんが顔を出す。
いつもながらすごい寝ぐせだ。私もそうなるけど。


「おはようございます。朝ですよ、兄さん」
「……おはよう、ございます」
「昨日はお疲れさまでした。ご飯食べて、頑張って学校行きましょう」
「……筋肉痛が」
「マッサージと湿布したんですけど……やっぱり二試合もしてますもんね」


もぞもぞと、ゾンビのように兄さんが出てくる。
起き上がるのを手伝って、制服を用意して。流石に着替えさせることはできないので、せめて目を覚ましてもらおうとカーテンを開けた。
夏が近い。刺すような日光が、部屋に入ってくる。


「今日は購買行かなくていいように、お弁当も作りました。学校、行けますか?」
「……はい」
「じゃあ私は、先に行ってるので。着替えてきてくださいね」
「……はい。……千瀬」
「はい?」


外に出ようとしていた体を止めて、振り返る。
兄さんは相変わらずゾンビのような顔だったけど、体調は悪くはなさそうだった。


「ありがとうございます」
「……」


ぱちくり、と目を瞬いて。
私は静かにほほ笑んだ。


「いえ、どういたしまして」


お礼を言われることじゃない。
兄さんがバスケをするのを初めて見た瞬間から、私は兄さんのために頑張ると決めたのだから。













学校につくと、兄さんと別れて、私は二年生の教室に向かった。
きょろきょろと教室の中を見回して。目的の人物を見つけ、近づいていく。


「おはようございます、監督」
「……」
「監督」
「うわっ!? あ、ああ……千瀬ちゃん」
「おはようございます」
「おはよ。どうしたの? 早いわね」
「はい、これを」
「これ……」


監督に渡したのは、昨日あった試合を録画したDVDだ。
昨日あった試合。次戦う相手の録画だ。

王者の一角、正邦高校。撮ったものを確認したけれど、中々に手ごわそうな相手だった。


「ああ、ありがとう。受け取るわね」
「はい」
「……ねえ、千瀬ちゃん」
「はい」
「相手の試合、見た? どう思った? 元帝光マネとしての意見を聞かせてくれないかしら」
「見ました。……そう、ですね」


帝光マネージャーとしての、意見。
私は正直、普通のマネージャー業務しかできない。だからそんなに変わったことは言えない、けれど。
思ったことを素直に言うとすれば。


「正邦高校は、特殊な練習をしていると聞きます。それゆえでしょうか。王者という名にたがわず、DFは強固でした」
「うん」
「中でも、坊主頭のDF……彼に見覚えがあります」
「見覚え?」
「はい。彼は確か……中学時代、帝光と戦ったとき、黄瀬君を止めた人です」
「!」
「きっと、簡単な試合ではないと思います」


あの頃の黄瀬君は、バスケを始めて間もなかった。
それでも紛れもなく天賦の才能を持っていて。そんな人を止めたのだ。只物じゃない。


「そう……わかったわ。ありがと」
「いえ。それでは、私はこれで」
「うん。またね」


頭を下げて、教室を後にする。

正邦高校と、秀徳高校。
この先の戦いも、順調にはいかなさそうだ。







back


top
ALICE+