『――それではこれより、Aブロック準決勝第一試合、誠凛高校対正邦高校の試合を始めます』


そうして始まった第一試合。
それはやはりというか、簡単にはいかなかった。
想定していたよりも、ずっと。


火神君がボールを操り、攻めの姿勢に入る。けれどDFは、あの坊主頭の男の子。
コート脇から見ていても分かる。圧力がすごい。黄瀬君にも劣らないほどに。


「火神、持ちすぎだ! よこせ!!」


伊月先輩にボールが渡る。シュートしようとして、弾き飛ばされた。
相手は正邦の主将、岩村さん。


「甘いな。その程度の攻めで、うちのDFは崩せない」


試合が始まってしばらくたつ。けれど得点は0点のまま。相手は12点、とっているにも関わらずだ。

今まで誠凛を見てきて思ったこととして、誠凛はスロースターターの傾向がある。
どうしてもそういう選手やチームはある程度いて、その時まず踏み出すのがうちでは火神君だ。
けれど今回、火神君は相手方に止められていて動けない。よって誠凛自体も、波に乗れていない。


「おい津川、ハリキるのはいいけど、後半バテんなよ!」
「大丈夫っスよー、思ったほどじゃないんで!」
「なんだとテメッ…ったっ」
「チャージング! 白10番!」
「……火神君、ファウル2個目です」
「あのアホは〜、どんだけ頭に血が昇りやすいの!?」
「火神ー! 落ち着け!!」


多分、火神君と相手方……ええと、津川君は、相性が悪い。バスケスタイルというより、性格が。
今思い出したけど、津川君は黄瀬君が相手をするのを嫌がった時、楽しそうな顔をしていた。
つまり相手を苦しめるのが好きというタイプ。性格が悪……よろしくはない。
そして火神君は直情型。相手の挑発に乗りやすい。津川君の軽口に乗って、簡単に怒りを表出してしまうのだ。

それだけじゃない。兄さんだって、うまくパスをできていない。
正邦はマンツーマンでDFをしてくる。超密着で、いつだって勝負所のように。
ちょっとやそっとじゃ振り切れず、兄さんのパスを受け取る体制ができていない。
誠凛の強みの一つである、兄さんのパス。それができないんじゃ、戦況は厳しいままだ。


「誠凛、タイムアウトです」


とはいえ、そんなにずっとDFを厳しくしていれば、普通は体力が持たない。
それでも正邦はそれを可能にしている。なぜなら。


「正邦は古武術を使うのよ」
「古武術…!? アチョー!?」
「蹴らないしそれ古武術チガウ! じゃなくて、正確に言うと「古武術の動き」を取り入れてるの」


古武術には、ナンバ走りのように、特殊な体の動き方をすることで、エネルギーロスを減らす方法がある。
他にも力を込めるとき、動くとき、色んな基本動作に古武術を応用している。それが正邦の強さの秘密だ。


「けど消えたり飛んだりするわけじゃないわ。相手は同じ高校生よ! フェイクにもかかるし、不意をつかれればバランスも崩れる。やってるのは同じバスケットよ。いつも通りやればちゃんと通用するわ。まだテンパるとこじゃないわよ!」


監督の激励を受け、再び皆がコートに散っていく。
再開した試合。火神君は先ほどと同様、津川君と1on1で戦っていた。
右側に切り出し、かと思えば左へ。チェンジオブペースだ。
と思った瞬間右へ動き、津川君を抜く。流石、動きが速い。

それでも正邦も負けていない。素早いパス回しでボールをつなぎ、得点に持っていこうとしている。
津川君にボールが当たって、防ごうとした火神君が3つ目のファウルをもらってしまった。
キセキの世代のような奇抜な才能はないけれど、熟練した使い手たちが多い印象を受ける。正邦の強さは達人の強さなのだろう。

でも、達人ならいるのだ。誠凛にだって。
ねえ、そうでしょう。兄さん。






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