「アウトオブバウンズ! 白ボール!」


今のところ得点は6対15。9点差か。
厳しすぎてどうしようもないわけじゃない。それでも1Qで9点差は、甘くはない。


「誰!? てか出てたっけ試合!? うっそだーマジ!? 存在感なさすぎっしょー!!」


聞こえてきた声に目を向ける。声の主は津川君。相手は兄さんだった。
多分、いつもの流れである。対戦済みだったとしても、兄さんが忘れられることは珍しくない。


「黒子テツヤです。出てました」
「よくわかんないけどホケツ君的な人? じゃあそのままがんばって出ててよ! 去年センパイ達誠凛に第1Qで20点差つけてたらしーんだ! だからオレ30点差くらいつけたくてさ! ガッカリしないでね! えっと…ホケツの人!」
「……わかりました。ガッカリしないように、がんばります」


そう答えた兄さんの目は、真剣だった。

試合再開。伊月先輩がパスを出す。そこには誰もいない、はずだった。


「なに!?」


DFの裏から、兄さんが水戸部先輩にパスを渡す。そのままシュート。
客席から驚きの声が聞こえてくる。流石兄さんだ。
鉄壁の正邦DFといえど、壁の内側からパスをくらうなどそうそうあることではない。

正邦ボール。伊月先輩が抜かれ、あわやシュートを決められそうになる。
と、そこを火神君がはじき落とす。誠凛が少しずつ、勢いづいてきた。
日向先輩の3Pで、第1Qは幕を下ろした。


「…そういえば、さっきまたコイツがバカ言ったそうだな。スマンな」
「ああ…いや…ぶっちゃけ…はい。去年のトラウマ思い出したし。けどまあ……全然いっすよ。乗り越えたし」


戻ってきた選手たちに、タオルとドリンクを渡す。
腰を下ろした彼らに、監督が声をかけた


「まだ勝負は始まったばかりよ! 陣型は攻守ともこのまま行くわ!ただパス回しにつられすぎてるからゾーンも少しタイトに。あと火神、ファウル多い!」
「う…」
「相手に合わせようなんて腰が引けちゃ流れ持ってかれるわ。攻める気持ちが大事よ!!」
「おう!!」


第2Q開始。
正邦のDFは、一団と厳しくなっていた。
はたから見ていてもわかるほどの圧力。抜かせる気がないのが分かる。
けれど、二人なら。


「ええ!?」


兄さんと火神君が連携して、津川君を抜く。
そこに岩村さんのヘルプ。股の下からボールを通し、火神君がシュート。
見事な連係プレーだ。


「うおおお!!」
「なんだ今のは!?」


以前より連携がうまくなっている。ただ、問題が一つある。
火神君のかく汗の量が、尋常じゃない。
津川君のマークのせいだ。オーバーペースになっているのだろう。
その時、津川君が笑った。


火神君にボールが渡る。彼が津川君の上からボールをぶち込もうとして、


「!!」
「だめだ! 行くな火神!!」


ピー! と、容赦ないホイッスルの音。


「OFファウル!! 白10番!!」


四つ目だ。第2Qにして、もう後がない。
けれど今のファウル……津川君が、わざとやったような気がする。わからないけれど。


「バッカたれ……!」


交代だ。これ以上火神君は出せない。
案の定、火神君は反論した。


「大丈夫すよこんぐらいっ! もうファウルしなきゃいいんだろ? いけます!」
「……。ま、ちょーどいいわ。オマエと黒子はどーせひっこめるつもりだったからな」
「…え?」
「………、ボクもですか?」
「最初から決めてたからな。お前ら二人は前半までって。まぁ心配すんな、正邦はオレ達が倒す」


そう告げたキャプテンの顔は、これ以上ないほど頼もしかった。


「そんな、なんでだよ…ですか! オレと黒子が前半までって…」
「理由はまぁ二つ…かな。一つは、緑間を倒せるのは、お前ら二人しかいないからだ。もしこの試合勝ったとして、秀徳に勝つには緑間攻略が必須条件だ。けど秀徳は予想通りすでに緑間を温存している。消耗したお前らじゃ勝てない」


確かに、緑間君を倒すには、兄さんと火神君の力は必要不可欠だ。
勿論、どちらの試合にも出られればそれが一番良い。だけどそれは難しい。
なら正邦に勝てる確率を下げてでも、秀徳に勝つ望みを残す。それがキャプテンの考えだった。


「いや疲れててもなんとかして…緑間倒してみせますよ! それに……」
「火神君…言う通りにしましょう」
「なっ?」
「ボクは先輩達を信じます。それに大切なのはきっと…もう一つの理由の方です」
「……!?」


私もそう思う。ちらりと、先輩たちの顔を見つめた。
この試合、大切なのは言うまでもない。でもそれは、決勝に行くためだけではない。

小金井先輩と土田先輩が、兄さんと火神君と交代して出る。
メンバー交代に、正邦は不信感を示していた。


「あーらら! いなくなっちゃったか〜〜。まぁちょっと物足りないけど…いっか!」
「最近の一年はどいつもこいつも。ガタガタうるせぇぞ茶坊主が、今からお前に先輩への口のきき方教えてやるハゲ」
「ちゃぼっ…!?」


日向先輩が怖い。我慢してたんだろうな。
一見すると試合をあきらめたようなメンバー編成。けれど先輩たちの真意は逆だ。


「さっきの話聞こえたが、まさか秀徳に勝つつもりとは…ウチもなめられたものだな」
「ああ、あんなん建前っすよ。もう一つの理由が本音だけど、別に大したことじゃないんで。雪辱戦に一年に頼って勝っても威張れないじゃないすか。……とどのつまり、」


それは、


「先輩の意地だよ」


先輩達の思いの乗った、熱い声だった。






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