「兄さん、タオルもう大丈夫ですか? 代わりにシャツをどうぞ」
「ありがとうございます」
「火神君も、どうぞ」
「……」
「あの、火神君」
「うお! な、なんだ?」
「シャツを……」
「あ、ああ」


ぱっとシャツをとった火神君。彼は眉間にしわを寄せて、睨むようにコートを見ていた。
大丈夫だろうか。先輩達より火神君の方が心配だ。


「何を深刻な顔してんの! みんなそんなヤワじゃないから大丈夫よ! 余計な心配してないで声出しなさい!」
「……ウス!」


……大丈夫そうだ。

正邦がシュートを決めようとして、キャプテンが止める。
伊月先輩が水戸部先輩にパスを出し、フックシュートが決まる。

正邦のスクープショット、誠凛のシュート。
誠凛のスタイルは、あまり見たことがないけれどしっくり来ている。
思えば兄さんたちが加わったチーム編成は、今年の春からのもの。
日向先輩のアウトサイドシュートと水戸部先輩のフックシュートを軸にした、攻撃型のチーム。それが誠凛のもう一つの型なのだろう。
それに。


「……監督」
「ん? なあに?」
「違っていたらすみません。伊月先輩……何か、不思議な気がして」
「不思議? 不思議ってなんだよ?」
「わかりません」
「オイ!」
「ただ、その……帝光時代にも見たことがあります。空間把握能力にたけている選手を。その人の動きと、似ている気がするんです」
「はぁ?」
「よくわかったわね。伊月君には、眼がもう一つあるのよ」


もう一つ。

伊月先輩が日向先輩にパスを出す。相手チームのガードを避けて進む。
当然相手もついてこようとして、正邦の選手同士でぶつかって。
その隙に、伊月先輩が日向先輩から受けたボールでシュートを決めた。


「伊月君は見えるのよ、「イーグルアイ」を持ってるからね!」
「イーグルアイ?」
「彼は身体能力は恵まれてないけど、頭の中で視点を瞬時に変えられる。つまり物を色んな角度から見れるから、常にコート全体が見えてるのよ。大丈夫って言ったでしょ。日向君達は万能じゃないけど、みんな一つは特技を持ってる。しかもそれを一年間磨いてきたのよ」
「やっぱスゲェっす先輩達…じゃあ小金井先輩と土田先輩も…!?」
「え…うん」


誠凛は去年、決勝まで行ったチームだ。
そこにはやはり力がないといけない。それが、先輩達が磨いてきた特技なのだろう。


「小金井君は全範囲からシュートが打てるわ!!」
「おお」
「けど成功率はそこそこ」
「それけっこー普通じゃね!?」


そ、そこそこ。厳しい評価だ。適切なんだろうけど。
なお、土田先輩はリバウンドが得意とのこと。



ボールが転がる。出そうだ、と思った瞬間、それを小金井先輩が追いかけて。


「とお、はっ、ん!?」
「え」


とっとっと、と後ろに下がってきた小金井先輩が、気付けば私の目の前にいた。
あ、これぶつかる。


「千瀬」
「わ!」
「んぎゃー!」


ぐいっと横から手を引かれ、どすんという音が隣から聞こえた。
どうやら兄さんが助けてくれたらしい。ありがとうございます、と言った後、はっとなって小金井先輩に目を向けた。


「小金井君! 大丈夫…じゃなーい!?」
「わぁあ目ぇ回してる!!?」
「て、手当てします!」


わ、私が避けてしまったせいで。下敷きになっていれば、私が倒れるだけで済んだかもしれないのに。
血は出ていない。表面に傷もない。おそらくは軽い脳震盪だろう。だけど……。


「ごめんなさい、小金井先輩……」
「交代しかなさそうね…」
「じゃあオレを出してくれ! …ださい!」
「何言ってんだ、オマエはダメだ。その元気はなんのためにとっといてるか忘れたんかだアホ! ちゃんとケリつけてくっから待っとけ!」
「だからってやっぱジッとしてるなんてできねーよ! 何か先輩達の力に…」
「ボクもそう思います」


兄さんが立ち上がったのが、視界の端で見えた。


「だから4ファウルの人はすっこんでてください」
「ぶ! なんだと黒子テメッ…」
「出ても津川君にまたファウルしたら即退場じゃないですか」
「しねーよ! ってかだからオレは津川にも借りがあるんだよ!!」
「…じゃあ津川君はボクが代わりに倒しときます」
「なぬっ…」


残り時間は五分。得点差は6。
先輩の心は決まったらしい。


「わかった…じゃあ一年同士、津川は頼むわ、黒子」


兄さんが脱いだシャツを預かってたたむ。
小金井先輩は静かに寝かせておいて、後で謝ろうと思った。


「あっれ…!? てっきり火神が出ると思ったのに。なんだー君だけ? 火神とやりたかったんだけどなー」
「すみません。力不足かもしれませんが、借りがあるそうなんで返しに来ました。代理で」


こういうときの兄さん、いつにもましてかっこいいな。







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