兄さんは津川君についた。
再び試合が始まって、ボールの弾む音がする。
「火神出ないでキミだけってのはビックリしたけど、結局一年生出てくるなんて。やっぱ誠凛の先輩達ってちょっと頼りないね!」
「?」
「だってキミら二人ひっこめたのは、先輩の意地だってさっき言ってたよ。…で今キミいんじゃん」
「出してほしいと言ったのはボクの方です。そもそも今までの試合ぶりを見てそんなこと、思えるはずないです」
「……」
「先輩には先輩の意地があるなら、後輩にも後輩の敬意があります。尊敬する先輩達を支えるためにも、ボクはキミを倒します」
後輩の敬意。兄さんのいうとおりだ。
火神君だってそれは分かってる。他の一年生だって、きっと同じ気持ちだ。
兄さんのパス、先輩のシュート。いつもながらに見事な連係で、点を取っていく。
「すげ…え」
「何今頃言ってんのよ! いつもこんなもんよ!」
「そうですよ。兄さんはいつもすごいです。訂正してください」
「な、何だよオマエ、こういう時だけ強気に……」
「! すみません。でも兄さんがすごいのはいつもなので……つい」
「……黒子も中々だけど、オマエの方も中々にブラコンだよな」
「?」
ブラコンな自覚はない。普通こんなものだろうに。
よくわからなかったので、コートの方に目を向ける。
兄さんのパスはいつも見事だし、先輩達もDFをかわしてパスを受け取るようになっていた。
「古武術ってことは、その名の通り古の技。現代のスポーツ科学とは考え方が全く違う。それをバスケに応用した特殊な動きが正邦の強さ。でも、特殊ってことは、クセがあるってことよ!」
私も協力して集めた、今までの正邦の試合全てを録画したDVD。
それを先輩達は、何度も何度も繰り返し見て研究していたのだ。
クセから次の動作を予測するために。デッキを一個お釈迦にするほどに。
対応できるようになったのは後半から。
それでも繰り返し攻撃を行うことで、ついに誠凛は正邦に追いつき、逆転した。
残り25秒。時間がない。
ここで正邦のシュートが入る。あと15秒。
「王者をなめるなよ!! キサマらごときが勝つのは10年早い!!!」
「なっ…!? オールコートマンツーマン!?」
「……!」
誠凛にゴールを入れさせないよう、それどころかもう1ゴール獲る気らしい。
時間はない。もうこのターンで最後だ。
水戸部先輩が相手をブロックし、その隙に伊月先輩がドライブ。
兄さんの近くにボールが行って、けれどパスコースの直線上には津川君の姿。
「黒子ォオオ!!」
その時、兄さんの手が空を切った。
失敗、ではない。パスターゲットの変更だ。
兄さんが送ったボールは、日向先輩の方へ向かい。
3Pシュートが、決まった。
「試合…終了ー!!!!」
ほっと肩の力を抜く。よかった、勝てた。
先輩達のことを信じていなかったわけじゃない。でも勝負は何があるかわからない。
喜ぶチームメイトたちを見ていると、「なんでだよ!!」と大きな声が聞こえた。津川君だ。
「誠凛なんて去年できたばっかのとこだろ!? 練習だって絶対ウチの方がしてるのに! 去年なんて相手にもなんなかったのに! 強いのはどう考えてもウチじゃんか…」
「やめろ津川」
「だって…」
「強い方が勝つんじゃねぇ…勝った方が強いんだ。誠凛の方が強かった、それだけだ」
岩村さんの言葉は、キャプテンだけあって的を得ている。
正邦は王者と呼ばれるほど強い。でも王者がいつまでも王者でいるためには、周りよりも強くないといけない。
「…名前教えてよ!」
「え?」
「名前!」
「……黒子テツヤです」
「……覚えとく!」
兄さんの方も、きちんとライバルとして認められたらしい。
まあ兄さんがすごいのは最初から分かっているので当然ではあるけれど。
「73対71で誠凛高校の勝ち!!」
「ありがとうございました!!」
これで一安心。……なんて言えたら、よかったんだけど。
次の相手は秀徳だ。むしろ心してかからないといけない。
泣いても笑っても、次で決まる。
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