「体冷えないようにすぐ上着きて! あとストレッチは入念にね! 疲労回復にアミノ酸! あとカロリーチャージも忘れずに!」


バッシュを脱いでいく選手たちに、一人ずつマッサージをしていく。
帝光の時はよくやっていたものだ。まあキセキの世代の人たち、特に黄瀬君なんかはマネージャーからも取り合われていたから、私は兄さん相手をすることが多かったんだけど。
先輩をマッサージして、兄さんをして。皆だいぶ疲労がたまっているようだ。


「お疲れ様です。えっと次は、火神君……あ」


火神君は、ロッカーにもたれかかった状態で寝息を立てていた。
マッサージしないと体が固まってしまう。でもなぜか、起こす気にはなれない。


「ちょっコラ火神!! 寝たら体固まっちゃうでしょーが!」
「まぁ…ほっとけよ」
「試合の後、珍しく凹んでたからな」
「4ファウルで抜けたからだろー? 気にすることねーのに」
「小金井、ラスト抜けたのは予想外だったけどね」
「う」
「す、すみません……私が避けたせいで」
「え!? いやいや何言ってんの! 女子下敷きにするよりましだから! 平気平気!」


優しい。試合が無事終わったとはいえ、頭を打ったんだから責めてくれてもよかったのに。


「もしこの後、何か異常があったらおっしゃってくださいね。治療費はお支払いします」
「大丈夫大丈夫。マネージャー責任感強いよな」
「そう、でしょうか」


帝光の頃の癖が抜けていないのかもしれない。
マネージャーは選手より下だ。中一の時、先輩のマネージャーにそう言いつけられてから、私の中にはその言葉が残っている。
だからこそ、私が原因でけがをさせてしまうわけにはいかなかったのに。
せめてもとハンカチに包んだ保冷剤を渡す。小金井先輩は苦笑しながらも受け取ってくれた。


「ま、火神は火神なりに責任感じてんじゃねーの? それにただ寝てるってゆーより…次の試合に備えて、最後の一滴まで力を溜めてるように見えるからな」


火神君は健やかな寝息を立てている。
次の試合は特に大変だろう。今のうちに休息をとっておくのは必要だ。


「あ、やべ。飲みもの切れちゃった」
「買ってきます。お茶でいいですか?」
「え? いいの?」
「はい。マネージャーの仕事なので」


頷いて、控室の外に出る。確かトイレの近くの角の所に、自販機があったはず。
時間もないので小走りで向かう。角を曲がったところで、急に誰かとぶつかった。


「!」
「あれ? 今何かにぶつかった? ……気のせいか」


相手は気付いていないらしい。影の薄さを恨む。
後ろに倒れこみ、危ない、と思った瞬間、背中を支える手があった。


「ダイジョーブ?」
「え、あ……」
「あれ? 誠凛の子じゃん。黒子さん……だっけ?」
「は、はい」


受け止めてくれたのは、黒髪にオレンジ色のジャージ。秀徳の人だ。
緑間君の隣にいるのを見たことがある。お名前は、確か。


「えっと……秀徳高校の、高尾さん……ですよね。すみません、ありがとうございます」
「あれ? オレのこと覚えてんだ」
「はい。緑間君と仲がいい人なので」
「仲いい? そう見える?」
「はい」
「そっか」


にっと笑う。親切な人だ。
もう一度礼を言うと、彼はひらひらと手を振りながら去っていった。

私も飲み物を買おうと踵を返して、ふと思う。
声も出さずに誰かに気付いてもらうの、久しぶりだ。







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