試合が始まる。コートに出ると、大量の熱を帯びた視線を感じた。
秀徳高校との試合。しかも先ほど正邦を下したばかり。
注目度は、大きい。
荷物を置いて、ジャージを脱いで。円陣を組む。
日向先輩が、口を開いた。


「いや〜〜……疲れた! 今日はもう朝から憂鬱でさ〜。二試合連続だし、王者だし。正邦とやってる時も、倒してももう一試合あるとか考えるし」


素直だなあ。思わず笑ってしまう。


「けどあと一試合。もう次だの温存だのまどろっこしいことはいんねー。気分スッキリ、やることは一つだけだ! ぶっ倒れるまで全部出しきれ!!」
「おお!!!」


チームメイトがコートに散っていく。そんな中、兄さんに近づく影があった。


「まさか本当に勝ち上がってくるとは思わなかったのだよ」


緑間君だ。


「だがここまでだ。どんな弱小校や無名校でも、みんなで力を合わせれば戦える。そんなものは幻想なのだよ。来い、お前の選択がいかに愚かか教えてやろう」
「…人生の選択で何が正しいかなんて誰にもわかりませんし、そんな理由で選んだわけではないです。それに一つ反論させてもらえば、誠凛は決して弱くはありません。負けません、絶対」


兄さんの瞳が、燃えていた。
私も兄さんのいうとおりだと思う。今まで練習や試合風景を見てきて、誠凛の強さは知っているから。

さあ、決勝だ。













試合が始まった。まずは誠凛ボール。
とはいえ、瞬く間に秀徳がガードにつく。王者を名乗るだけあって、速い。


「うっわ、スキねぇ〜〜」
「一本!! 大事に!!」
「じゃない! 格上相手にのんびり合わせてたら、主導権プレゼントするようなもんよ! まず第1Q獲る! そのためには…」


伊月先輩から、兄さんにパスが渡った。


「挨拶がてらに、強襲ゴー!!」


ボールは兄さんから火神君へ。アリウープだ。
ゴールへと決めようとして、はじかれる。


「!!?」
「まったく…心外なのだよ。その程度で出し抜いたつもりか?」
「うおおぉ!! アリウープを!? はたき落とした!!」


緑間君だ。そう上手くは点を取らせてくれない。
相手ボール。高尾君が伊月先輩の隙を見て、三年生にボールを渡す。
あわや先制点となろうとしたところを、今度は日向先輩が止めた。


「外れた!! 両チーム譲らねぇ!!」


その後も決めようとして、なかなか決まらず。そしてそれは相手も同じこと。
もう二分が経とうとしている。このままだと、第1Qはおそらく、先制点をとったほうの流れとなるだろう。
秀徳のキャプテンがボールを投げる。速攻だ。
ボールの渡った先は、緑間君だ。マズい。

彼の投げたボールは、高い弧を描いて、きれいにゴールへと決まった。


「うわぁあきた3P!!」
「なんつーシュートだ!!」
「先制点は…秀徳だ!!」
「……っ」


監督が隣で息をのむ。けれど、私は見ていた。
ゴールが決まった後のボール。その傍に、兄さんがいる。

兄さんがぶん投げたボールが、コートを突っ切って一気に火神君へと渡り。そのままゴール。


「一瞬でやり返したぁ!!?」
「それよりマジか今の!? コートの端から端ぶった切ったぞ!!?」
「黒子…!!」
「すいません。そう簡単に第1Q獲られると、困ります」


ぐ、とこぶしを握り締める。
カッコイイ。流石兄さんだ。


緑間君にボールが渡る。シュートを打つかと思いきや、彼はパスをした。
いこうと思えばいけそうだったのに。緑間君がパスとは、珍しい。
推測でしかないけれど、多分これは兄さんが緑間君を封じているのだ。
緑間君のシュートは、滞空時間が長い。その間に緑間君は戻っているのだけれど、それは他の人も戻ることができることを示している。
つまり、先ほどの兄さんと火神君の連撃。それを何度もやられてしまうのを防いでいるのだ。


「いやいやいや、そんなんで秀徳抑えられるとか思われちゃ困るなー」


その時、高尾さんが妙な動きをした。
左に体を動かす。伊月先輩が追う。かと思いきや右に振り切って、パスを出した。


「おおお」
「ナイッシュウ」
「すげえパスだ!!」


何となく、既視感を覚える。
伊月先輩の動きに、似ているような。

兄さんから水戸部先輩へのパス。シュート。


「おおっ、すぐに返した!!」
「誠凛のパスワケわかんねぇ!! けどすげぇ!!」
「おーい、高尾ー、木村ー。マーク交代。高尾、11番につけ」


声援の中で聞こえた、秀徳の監督の声。
高尾君が、兄さんにつく。この指示の真意は。


「…やっぱねー。こーゆー形になると思ったんだわー。まっ、真ちゃん風に言うなら、運命なのだよっ。オレとオマエ、真ちゃんとアイツがやりあうのは」


なんとなく、マズい気がする。
悪い予感は当たるものだ。高尾君は、笑みを浮かべていた。


「しかしまさか、こんな早く対決できるとはねー。初めて会った時から思ってたんだよ。オレとお前は同じ人種だって」
「……?」
「同じ一年だし? パスさばくのがスタイルっつーか、生業の選手としてさ。だからねー、ぶっちゃけなんつーの? アレ…同族嫌悪? お前には負けたくねーんだわ! なんか」


同族嫌悪、か。兄さんにそんなこと言う人、初めて見た。


「ってか今までこんな感覚になったことねーんだけどな。お前がたぶん…どっか他と違うからじゃね?」
「すいません、そーゆーこと言われたの初めてで…困ります」
「えー」
「…けど、ボクにも似た感覚はちょっと、あります」
「いーね、マンマンじゃん、やる気。っ…て、んがっっ!!?」


高尾君の前から、兄さんが消える。
日向先輩にボールが渡った。決める、そう思ったのに。


「残念だったな、黒子」
「なーんてな」


ばちっと、それはまるで当たり前のように。
高尾君が、兄さんのパスを叩き落とした。


「黒子のパスが……!?」
「失敗!?」
「……失敗じゃ、ないと思います」


今のは失敗じゃない。兄さんに限って、このタイミングでそれはありえない。
おそらく、


「アイツも持ってるんだ、オレのイーグルアイと同じ…いや、視野の広さはオレより上の、ホークアイを」
「なっ…!!」


伊月先輩の言葉が聞こえる。ホークアイ、言いえて妙だ。
視野が広いということは、全体を見ているということ。兄さんのミスディレクションは、それとは反対に、兄さん一人から視線を逸らす能力だ。


「つまり高尾には、黒子のミスディレクションが効かない」
「誠凛、タイムアウトです」


誠凛チームがベンチに集まる。皆の顔色は、よくはなかった。
今まで無敵だった兄さんのパスが使えないのだ、無理もない。
でも兄さんは、ここで終わるような人ではない。


「カントク、このまま行かせてくれ…ださい。オイまさか、オマエこのままやられっぱなしじゃねーだろーな」
「まあ…やっぱちょっとやです」
「…ハッ、じゃーひとまず高尾は任せた。こっちもアイサツしよーか、土産もあるしな」


兄さんはこういう時こそ、諦めない人なのだ。








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