「今のまま行く…? 火神君はともかく…高尾君にはミスディレクションは効かないのよ? 大丈夫?」
「大丈夫じゃないです。困りました」
「うん…そう。てかオイ! どーすんだ!」
「けど…できれば第1Q、残り3分半。このまま出してもらえないですか」
「!?」


タイムアウト終了の合図がなる。
監督が、ちらりとこちらを見た。


「……兄さんが言うなら、それが最善だと思います。私からもお願いします、監督」
「………わかった…任せるわよ! 二人共」


兄さんは、こういう時は間違わない。
熱い心は持っているけど、冷静な人だから。

再び兄さんと高尾君が向き合う。
王者との二連戦で、皆だいぶ消耗している。くらいつくには、兄さんと火神君の力が必要だ。

けれど、兄さんのパスはまた高尾君にさえぎられた。
魔法とまで言われる誠凛のパスが、効力を失っている。
でも兄さんは、ここで終わる人じゃない。何か考えがあるはずだ。


高尾君から緑間君へ、パスが渡る。火神君はまだ少し遠い。


「…何をボーッとしているのだよ。ここからは本気でいく。もっと必死に守れよ」
「なっ…?」
「オレのシュート範囲は、そんな手前ではないのだよ」


緑間君がボールを投げる。そこはセンターラインだった。
普通なら入るはずもない長距離のシュート。けれど入る、と直感した。


「うっお…マジかよ!?」
「あんな遠くから決めてきた!?」


緑間君がゴール下へと戻る。そこまで戻られてしまえば、兄さんの先ほどの長距離パスも意味をなさない。


「だが…そもそも関係ないのだよ。俺のシュートは3点、お前達のカウンターは2点。何もしなかったとしても差は開いていく」


8対14。やはり秀徳は強い。


「ハッ…細けーことなんて知るか!」


火神君がボールを持つ。緑間君と向き合う。
そのまま投げた。3Pだ。


「はぁ!? あいつ確かアウトサイドシュートは苦手じゃ…」


確かに、火神君が3Pを決めるとこなどめったに見ない。
火神君が走る。行きつく先はゴールだ。


「ハッ、正直まあそーだよ! けどカンケーねぇな、そのまま入りゃそれでいーし…外れたら…」


がこ、とボールがリングにはじかれる。


「自分でブチこむからな!!」


火神君が勢いよく、ボールをゴールに入れなおした。
き、規格外の動きだ。初めて見たあんなことする人。


「うわぁあなんだ今の!?」
「一人アリウープ!?」
「マジか…」
「動きが派手なだけのことだ、オタオタするな!」


秀徳の3年生が喝を入れ、キャプテンがゴールを決める。
点差はまだ7点ある。兄さんが通用していないのも大きいのだろう。

その時、監督のポケットから、何か不思議な物体が出てきた。


「何か落ちましたよ。これ……は?」
「ああ、この前折ったやつ…忘れてたわ」
「折っ……?」


まじまじと見る。
黒い……甲冑? を被った、人形? だろうか。フィギュアと言った方がいいかもしれない。
曰く、日向先輩はプレッシャーに慣れるため、シュートを外した時宝物のフィギュアをへし折るようにしているのだそうで。
変わった練習法だ。これもその折った一つなのだという。


「けどだから日向君は、大事なシュートは絶対決めるわ!!」


その言葉に呼応するように、日向先輩が3Pを決める。


「王者がなんぼのもんじゃい! 死ね!」
「おい日向本音出てる!」
「そしてちょっとだけ性格がゆがんだわ」


なるほど。クラッチタイムの性格の豹変ぶりはそういうことか。
残り三秒。ここで終わるかと思ったとき。


「いいシュートなのだよ…人事を尽くしているのがよくわかった。だが…すまないな」


緑間君がかがむ。3Pの構えだ。
けれどそこは、コートの端。

そんなところから決められる人なんて、いるはずない。
なのに、緑間君の構えは全くと言っていいほど、不安がなくて。

ボールが投げられる。


「そんな手前ではないと言ったのだよ。オレのシュート範囲は、コート全てだ」


きれいな弧を描いて、それは見事にシュートとなった。








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