そして第4Q。火神君は言葉どおり、水戸部先輩にパスを出してシュートを託す。
兄さんに殴られ、言葉で諭されたことで冷静になったらしい。
……とはいえ兄さんを。しかも顔を。殴ったのだ。
これで頭を冷やさなきゃ本当に怒る。
「黒子に殴られて頭は冷えたか。だが…お前の体力は残りわずかだ。もうお前にオレのシュートは止められない」
再び緑間君がシュートの態勢に入る。
彼の言う通り、火神君はもうだいぶん限界にきているだろう。けれど。
――「黒子の新しいパス…!?」
「なんで今まで……」
「捕れる人が限られるんです…けど、今の火神君なら捕れるかもしれません」
兄さんがそう言ったのは、突然だった。
新しいパス、というのが帝光の時に見せていたあれのことなら、私にもわかる。
あれはそうそう、誰もが捕れるパスではない。
「でもパスが火神君だけでは最後までもちません。やはり高尾君のマークを外して通常のパスも必要です」
「あ…」
「けどもういけんじゃね? オレの目もつられそうだし」
つられる、というのはどういうことなんだろう。
目がつられる。言葉からして、おそらくは。
「火神君!!あと何回跳べる?」
「跳ぶ…?」
「緑間を止めた、あのスーパージャンプのことか?」
「あれは天性のバネを極限まで使うから、消耗がハンパないのよ。加えて火神君はまだ体ができてない。一試合で使える回数は限られてるわ。本人も気づいてるはずよ、でしょ?」
「そんなん…跳べるぜです、何回でも…」
「あのね…今は強がりとかいーから!」
震える火神君の足。負担は大きそうだ。
「よくて……2回ね。筋力値から推測するとこれが限界ね。もし2回目を跳んだら、あとはコートに立ってるだけで精一杯だと思うわ」
「2回…で、どうやって緑間を止めれば…」
「1回は勝負所にとっておいて。もう1回は…」
――第4Q最初のシュートをひっぱたけ!!
監督の指示通り、火神君が緑間君のシュートを叩き落とす。
「なっ…!?」
落ちたボールを伊月先輩がシュート。これで十点差だ。
「カントク! いきなり2回のうち1回使っちゃっていいんすか!?」
「ハッタリだからね!」
「ゲ!」
「こっからはフツーにマークしてるだけでやっとだからね。緑間君に撃たれたら止められない」
ハッタリ。つまり、火神君のジャンプがまだ跳べるかも、と思わせること。
緑間君は慎重な人だ。無理にシュートを打つ性格ではない。
火神君に邪魔される可能性があるなら、シュートをする本数は減るはずだ。
「もう今できることは、秀徳の得点力を少しでも落として、それ以上に点をとるしかない! だから…後は託したわよ、黒子君!!」
兄さんについているのは高尾君。彼のホークアイは厄介だ。
ただ厄介というだけで、全く効かないわけじゃない。
ホークアイはコート全体を見るほどの視野の広さが特徴だ。意識を兄さんのほかにそらしても、視界にとらえ続ける。
だから兄さんは、意識を自分からそらすのではなく、自分へひきつけるようにした。
そのおかげで狭まった視野なら、今度はそらすことができる。
「……!? いない!? どこに…!?」
辺りを見回す高尾君。その後ろに、兄さんの姿があった。
けれどそれだけじゃダメだ。兄さんは見えなくても火神君が見えれば、パスをとられてしまう。
そこで兄さんが打ち出した作戦、それは。
「今度は取られません。今までは来たパスの向きを変えるだけでしたが、このパスは加速する…!」
まるで鉄砲でも打つかのように、ものすごい速さで兄さんがパスを撃った。
とった火神君と緑間君が対峙する。
「絶対に行かせん!!」
「うぉおおあ!!」
火神君がスーパージャンプで、緑間君の上からシュートを決めた。
「うわぁあ!」
「スゲェエエ!! なんだ今の!?」
兄さんの撃ったパス。それは、「キセキの世代」しかとれないはずのパスだった。
そして火神君のダンクシュート。あそこでダンクをする必要は必ずしもなかった。けれど、あれはチームに活力を引き出した。
先輩達が火神君の背中を叩いていく。点数は2点分。けれど価値は、それ以上にあった。
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