「さ! 帰ろっか!」
「いやちょっ…ゴメンマジ待って」
元気な監督の声に、まるで死にかけのゾンビみたいな声が返す。
それは日向先輩含め、試合に出ていた皆の悲鳴だ。
「2試合やってんだぞ、しかも王者…んなテキパキ帰れるか…!!」
「あ、ゴメン」
「湿布いる人、いますか」
「くれ!」
「オレも!」
「マネージャー保冷剤ある!?」
「制汗剤なくなった……」
「保冷剤ありますよ。制汗剤も予備があります。スプレーとシートとどっちがいいですか?」
「シート!」
「オレスプレー!」
「はい」
それぞれに物品を渡し、しゃがみこんだままの火神君を見る。
彼はぷるぷる震えたまま動けないようだった。
「オレらは少し休めば大丈夫そうだけど、火神がな。ムチャしたし…」
「火神君、動けますか?」
「動くどころか…立てん…!!」
「でもいつまでもここにいるわけにもいかないし…とりあえずどっか一番近いお店に入ろう!」
「火神君はだれかおんぶしてって!」
「じゃあ私が……」
「いやマネージャーは無理だろ! 火神何キロあると思ってんだ!」
「が、頑張ります!」
「じゃんけんだじゃんけん。男だけでな」
じゃんけんで負けたのは兄さんだった。
「おーい黒子、大丈夫か?」
「すいません、もうムリです」
「ちょ黒子テメッ、もっとがんば、あ〜〜!!」
火神君の悲鳴がこだまする。
近くのお好み焼き屋さんに入るころには、兄さんに引きずられた火神君はどろどろだった。
「黒子テメェ覚えとけよコラ…」
「すいません、重かったんで」
「仕方ないですよ。試合の後ですもんね。火神君、タオルです、拭いてください。あと……ジャージは洗濯しておきますね。借りて帰ってもいいですか?」
「おう、さんきゅ。……ん?」
火神君が、お好み焼き屋さんの店内を見て眉を顰める。
なんだろうとその視線の先を追う。そこにいたのは、
「お、」
「ん」
「黄瀬と笠松!?」
「ちっス」
「呼びすてかオイ!!」
黄瀬君と、そのセンパイの笠松さんだった。
ぺこりと会釈すると、黄瀬君が手を振ってくれる。
「すいません、16人なんですけど」
「ありゃ、お客さん多いねー。ちょっと席足りるかなー」
「つめれば大丈夫じゃね?」
「あっちょっとまっ…座るの早っ!」
「もしあれだったら相席でもいっすよ。ここ六人席だし」
と、いうことで。
隣に兄さん、反対隣に黄瀬君。
向かい側に火神君、その隣に笠松先輩。
なんだか凄い席だ。場違い感が半端ない。
「なんなんスかこのメンツは…そして火神っち、なんでドロドロだったんスか」
「あぶれたんだよ。ドロはほっとけよ。っち付けんな」
「食わねーとコゲんぞ」
「兄さん、メニューです。何にしますか?」
「うーん……」
とりあえずでドリンクを頼む。
さあ祝勝会だと、主将がドリンクを持ち上げる。
「よし、じゃあ…カンパー……」
「すまっせーん。おっちゃん、二人、空いて…ん?」
聞き覚えのある声。
振り返った先にいたのは、緑間君と高尾君だった。
き、気まずい。
「なんでオマエらここに!? つか他は!?」
「いやー真ちゃんが泣き崩れてる間に先輩達とはぐれちゃってー。ついでにメシでもみたいな」
「オイ! 店を変えるぞ高尾」
「あっオイ」
二人が外に出る。直後、ものすごい雨と風の音が聞こえてきて。
再びドアが開くと、濡れネズミになった二人がいた。
「あれっ? もしかして海常の笠松さん!?」
「なんで知ってんだ?」
「月バスで見たんで! 全国でも好PGとして有名人じゃないすか。ちょっ…うおー!! 同じポジションとして話聞きてーなぁ!! ちょっとまざってもいっすか!?」
「え…? てか正直今祝勝会的なムードだったんだけど…いいの?」
「気にしない気にしない!! さ、笠松さん、こっちで!!」
「ああ…いいけど」
高尾君が端にある席に笠松さんを連れてきて。
代わりに先ほどまで笠松さんがいた席に収まったのは、緑間君。
き、気まずすぎる。席変わりたい。変われる場所がない。
「ちょっとちょっと、チョーワクワクするわね!?」
「オマエ、これ狙ってたろ」
「えー? まっさかー」
確信犯か。ヒドイ。変わってほしい。
じ、と見つめるも、高尾君はにっこり笑うだけ。
気付いていない? そんなはずはない。ホークアイだって持ってるんだから。
愉快犯だ。
「…とりあえず、何か頼みませんか。お腹へりました」
「オレもうけっこう一杯だから、今食べてるもんじゃだけでいっスわ」
「よくそんなゲ〇のようなものが食えるのだよ」
「なんでそーゆーこと言うっスか!?」
「いか玉ブタ玉ミックス玉たこ玉ブタキムチ玉…」
「なんの呪文っスかそれ!?」
「頼みすぎなのだよ!!」
「大丈夫です、火神君一人で食べますから」
「ホントに人間か!?」
兄さん達が頼んだお好み焼きが来る。
それを焼いて、ソースとマヨネーズ、青のりに鰹節をかけて。
その間、緑間君はずっと仏頂面だった。
「緑間っち、ホラ、コゲるっすよ?」
「食べるような気分なはずないだろう」
「負けて悔しいのは分かるっスけど…ホラ! 昨日の敵はなんとやらっス」
「負かされたのはついさっきなのだよ! むしろオマエがヘラヘラ同席している方が理解に苦しむのだよ。一度負けた相手だろう」
「そりゃあ…当然リベンジするっスよ。インターハイの舞台でね」
インターハイ。
海常は神奈川だ。順当に勝ち進めば、必ずこの先戦う時が来る。
「次は負けねぇっスよ」
「ハッ、望むとこだよ」
好戦的に笑った黄瀬君。彼を見て、緑間君は柔らかい目をした。
「黄瀬…前と少し変わったな」
「そースか?」
「目が…変なのだよ」
「変!? まぁ…黒子っち達とやってから、前より練習はするようになったスかね。あと最近思うのが…海常のみんなとバスケするのがちょっと楽しいっス」
楽しい。そうか、そう思うのか。
それは何よりだ。帝光のころは皆、つまらなさそうにしていたのを覚えている。
「……。妹の方の黒子、それをよこすのだよ」
「はい。ブタ玉でいいですか?」
「ああ。……どうもカン違いだったようだ、やはり変わってなどいない。戻っただけだ、三連覇する少し前にな」
「…けど、あの頃はまだみんなそうだったじゃないですか」
「オマエらがどう変わろうが勝手だ。だがオレは、楽しい楽しくないでバスケはしていないのだよ」
楽しく、ないのかな。緑間君は。
あんなに上手いのに。キセキとまで言われているのに。
もぐ、と自分で焼いたお好み焼きを食べる。少し焦げていて、味はよくわからなった。
「オマエらマジゴチャゴチャ考えすぎなんじゃねーの? 楽しいからやってるに決まってんだろ、バスケ」
「なんだと…。……何も知らんくせに、知ったようなこと言わないでもらおうか」
「……緑間君は、」
「あ」
私が口を開いたとき。
緑間君の頭に、焼きかけのお好み焼きがクリーンヒットした。
どうやら犯人は、後ろにいた高尾君らしい。
「………。とりあえず、その話は後だ。高尾、ちょっと来い」
「わりーわりー…ってちょっスイマッ…なんでお好み焼きふりかぶってん…だギャー!」
話がさえぎられてしまった。緑間君に聞きたいことがあったのに。
本当に、バスケは楽しくないですか。
そう言いかけた口を閉じる。すると兄さんが、こちらに笑いかけた。
「火神君の言う通りです。今日試合をして思いました。つまらなかったら、あんなに上手くなりません」
「……!」
「だから心配しなくて大丈夫ですよ、千瀬」
「はい、兄さん……!」
「ていうか緑間っち、千瀬っちにお好み焼き焼かせてなかったっスか? ズルイっス! オレも千瀬っちのお好み焼き食べたい!」
「お腹いっぱいなんですよね……?」
「ズルイってなんだよ」
「いや緑間っちばっかり千瀬っちに世話焼かれててなんか……なんだかんだ言って緑間っちも昔の癖抜けてねえっすよ」
「クセ……?」
「千瀬っち仕事早いから、みんなに頼られてたんスよ。やっぱり誠凛いいなあ……今度誠凛に勝ったら千瀬っちください」
「あげません」
「行きたくないです……すみません」
「またフラれた!」
そう言ってもらえるのはうれしいけど、過大評価が過ぎる。
私はできることしかやってない。みんなに頼られていたというのも、黄瀬君の勘違いだろう。
でも確かに、昔は緑間君のサポートをすることもあった。多分性格的に通じ合うものがあったんだと思う。
今はもう、昔の話だ。
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